方丈記 鴨長明 現代語訳付き<1>
「方丈記」 現代語訳付き<1>
鴨 長明 (著), 簗瀬 一雄 (翻訳) 2010/11角川学芸出版 文庫: 243p
Vol.3 No.0319 ★★★★★
1)ものすごい大地震があって、ひどくゆれた。そのゆれ方といったら、なみなみのものではない。山はくずれて、川をうずめてしまい、海は傾斜して、海水が陸地をひたした。土が裂けて、水がわき出し、巌石が割れて、谷にころげ込む。海辺を漕ぐ船は波に翻弄され、道を行く馬は立つ足もとが定まらない。p99
2)こんなにものすごく震動することは、しばらくで止まったけれども、その余震はしばらくはやまない。これが大地震のあとでなく、ふだんならびっくりするくらいの地震が、1日に2~30回ゆれない日はない。10日、20日と日がたつと、だんだん間隔が遠くなって、あるいは1日に4、5回、2、3回、また1日おき、2、3日に1回などいうふうになったが、おおよそ、その余震は3ヵ月ほどもあったろうか。p101
3)今度の大地震を経験した人は、みなこの世がつまらないものだということを話しあって、少しは煩悩もうすらぐように見えたけれど、それから月日がたち、年が過ぎたあととなると、大地震のこと、それによって世のはかなさを嘆きあったことなどを、口に出していう人さえいあしない。p101
4)こんな愚痴をとやかく述べている内に、年齢は毎年毎年かさみ、住む家は移るたびごとに狭くなっている。私が前に比べて100分の1というその家の様子は、普通の家とはまるで似ていない。
家の広さはやっと3メートル平方だし、高さは2メートルそこそこである。私は終生ここでに住もうなどと、場所を決めていないのだから、宅地を選び定めて、そこに家を建てるなんていう普通のやり方をしない。
土台を組み、簡単な屋根を造り、木と木とのつなぎ目ごとに、つなぎ留の金具をかけてある。こうした考案は、もしこの土地が気に入らないことがあれば、容易に他の場所へ家を移動させるためである。その家を造りかえることに、どれほどのやっかいがあろうか。車に積むと、わずかに2台分であり、車の借り代を支払う以外には、まったく他の費用はかからないのだ。p105
5)方丈のいおりの東側に1メートルたらずのひさしをさし出して、柴を折って、もやす所とする。南に竹のすのこ板を敷き、その西に閼伽棚(あかだな)を造り、北側に衝立て障子をへだてとして、阿弥陀如来の絵像を置き、そのそばに普賢菩薩の絵像をかけ、前に法花経を置いてある。
いおりの東側のはしに、わらびの穂のほうけたのを敷いて、寝床とする。西南のかどに、竹のつり棚をこしらえて、黒い皮張りの箱三つを置いてある。これは和歌・音楽の書物、往生要集というようなものの抜き書きを入れてある。
そのそばに、琴と琵琶をそれぞれ一面づつ立ててある。おり琴・つぎ琵琶というものがこれである。仮住まいのいおりのありさまは、このようなものである。p106
6)いおりのある場所の様子を述べてみると、南にかけひがある。岩を組み立てて、水がたまるようにしてある。林が家の近くにあるので、たき木する小枝を拾うのにも不自由をしない。この所の名を外山というのである。
つるまさきが道をおおいかくしている。谷は木が茂っているけれど、西の方は開けている。だから西方極楽浄土を観法によって念ずる便宜がないわけではない。p106
7)いったい、人間の友人関係にあるものは、財産のある人を大切にし、表面的に愛想のよいものとまず親しくなるのだ。必ずしも、友情のあるものとか、すなおな性格なものとかを愛するわけではない。そんなことなら、人間の友人なんかつくらずに、ただ、音楽や季節の風物を友とした方がましだろう。p111
8)さて考えてみると、私の生涯も月日が傾くように終わりに近く、余命も少なくなった。もうすぐに、三悪道におちようとしているのだ。自分が一生の間になした行為を、今さらなんでとやかく言おうとするのか。仏のお教えくださる大切な点は、なにごとについても、執着を持つなということである。
----私が今、この草庵を愛する気持ちも、罪科となろうというものだ。静かな生活に執着するのも。往生の障害になろうであろう。どうして、これ以上、役にもたたない楽しみを述べて、もったいなくも最後に残ったわずかな時間をむだにしようか。いやいや、そうしてはいられないのだ。p114
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