森は海の恋人 畠山 重篤
「森は海の恋人」
畠山 重篤 (著) 1994/10 北斗出版 単行本 192p
Vol.3 No.0352 ★★★★★
1)東日本大震災前からのつながりで、震災後も「森」を考えることが多かった。ソローの「森の生活」からついつい樹木や畑作などのことばかり連想していた。しかし、ソロー・ハットの前には実は、ウォールデン・ポンドという湖が広がっていたことを忘れてはならない。
2)震災の、特に津波の被害を受けた地域は、当然のことながら海の近くであり、漁民や水産加工関連の人々が多かった。森にいて、海のことを思うと、そう言えば、「森は海の恋人」という本があったな、と思い出した。
3)著者は1943年生まれ、宮城県気仙沼地方にいて、牡蠣養殖に携わっている人だ。この人の本、とてもいい。さすが名著の噂にたがわず感動的なものだった。
4)牡蠣には、私なりにこだわりがある。かつて20代で大病を患って入院した時、何か食べたいものがないか、といわれると毎回「牡蠣」ばかりが頭に浮かんだ。入院していた時は9月後半から3月後半までのちょうど、牡蠣シーズンにあたっていたせいもあるが、とにかく牡蠣が食べたかった。
5)実際は抗がん剤や放射線治療の効果も大きかったのだが、私は、あれほど毎日食べた牡蠣がこのいのちを助けてくれたのだ、という感謝の気持ちがとてもつよい。
6)その牡蠣、いままでは海のエキスだとばかり思っていたのだが、実は、それは森のエキスでもあったのだ、と、あらためて気づかされた。
7)ハイテク機器が搭載された船を操る現代っ子漁民も、機器に頼り切っている者は漁が少なく事故も多いといわれる。沿岸に生きる漁民にとって、山を読むことは今も変わらぬ必修科目なのである。p15「森と海・初めての出会い」
8)今回の震災で、青森県から茨城県にかけての沿岸部、特にリアス式海岸で営まれている漁業は壊滅的な被害を受けた。著者が住む唐桑地方なども、どうなってしまっているだろう。この本に描かれる、漁村の子供達が、以下に海になじみながら、一人前の漁民になっていくかが活写されているだけに、心痛む。
9)そう思ってググッてみると、関連の記事があった。やはり著者も大きく被災しており、その状況が報告されている。心よりお見舞い申し上げます。
10)一軒の家で必要な燃料は、薪が五棚、柴が百丸といわれ、どこの家でも、木小屋に大切に保存しておいた。縁談話があって、こっそり家を見に行く時、まず木小屋を見ろ、といわれたものだという。割った薪が、きれいに重なっていれば、その家は、しっかりした家だと評価をされた。結婚適齢期の息子のいる家では、見せ物のように棚木を重ねていたという。p32「森と海・初めての出会い」
11)海のことを考えてくらす海辺の人々にとって、森そのものを考えるチャンスは多くなかったが、それでも、漁具や仕掛けを作る上で、材木の種類を様々組み合わせることが大切で、その差によって、大きく漁獲高が違ったらしい。
12)一時、毎年番(つがい)で飛んでくる鶚(みさご)が、一羽しか姿をみせない年が続いたことがあった。後で知ったのだが、BHCやDDTなどの塩素系の農薬が海に流れ、植物プランクトンからの食物連鎖で、海水域に棲む石斑魚や鯔(ぼら)に繁殖障害が出たらしい。その後、因果関係の解明が進み、BHCやDDTは使用禁止になった。そして親子連れの鶚(みさご)の姿が舞根湾の上空に再び見られるようになったのである。今年も潮干狩の季節がやってくる。親子連れの鶚(みさご)が飛んでくる日も、近い。p61「汽水域の生き物たち」
13)まさに、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」につながっていく部分である。そこに住んで、注意深くみていないと、すぐには気がつかない自然界の変化である。
14)森は海を海は森を恋いながら悠久よりの愛紡ぎゆく p137「森は海の恋人」
15)この本のタイトルはこの短歌にゆえんしている。この本に要所要所に挟まれている短歌は、熊谷龍子という人の作だ。
16)それというのも、気仙沼湾の母なる川、大川に、こともあろうに、河口から僅か8キロ地点に巨大ダムを建設するという、新月(にいつき)ダム計画が、20年も前から計画され、宮城県も気仙沼市も躍起となっているからである。松永教授は、気仙沼のように、海に依存している地域が、海に近い何百ヘクタールもの森林を失い、しかも川を塞き止めるなんて理解に苦しみますね、と眼鏡の奥を光らせたのであった。p143「森は海の恋人」
17)民主党の脱ダム宣言もいつのまにかうやむやになってしまった。八ッ場ダムのことなど話題になることはなくなってしまった。気仙沼の新月ダムのほうは、下流の気仙沼市等の漁業関係者からカキ養殖に重大な影響を及ぼすとして反対運動が起こり、その後水需要の減少なども重なり計画が中止された、という
18)この文を書いている最中、我が宮城県知事と仙台市長が、土木建築工事に絡む収賄容疑で逮捕されるという大事件が持ち上がり、事件は全国に飛び火していった。その後、各地のダム建設に絡む汚職事件も次々に明るみに出、巨額の金が動くダム建設事業は、大手ゼネコンを始め、建設業界にとっては、垂涎の的であるおとがわかる。そして一部の政治家と、業界との癒着の構図がみえてくると、果たして、今計画されている全国のダム建設計画が本当に正当性があるのかどうか疑惑を感じざるを得ないのである。p156「森は海の恋人」
19)この構図は、原発建設計画と重なるところが多いだろう。山尾三省「一切経山」にもでてくる、バブル期のゼネコン・マネーも交じって成立したシンポジウム「スピリット・オブ・プレイス」だったが、パンフレットを飾った顔役達は、実は影で、どれだけの汚れた仕事をやっていたのか、計り知れない。
20)たまたま、日本を訪れていたアメリカ・インディアンのデニス・バンクス氏が、長良川を愛する会の所会長と共に応援に駆けつけてくれた。自然と共に生きてきた平原の民のインディアンが船に乗りたいとの希望であった。そして室根山を望みながら、海の民と共に船上で祈りを捧げたのであった。p167「山に翻った大漁旗」
21)森は海の恋人、というフレーズは、もっとももっと広い意味を持っていたのだった。当ブログにおける次なるカテゴリの名前に使わせてもらおうかな。
22)森は此方に海は彼方に生きている 天の配剤と密かに呼ばむ p189
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