牡蠣礼讃 畠山重篤
「牡蠣礼讃」
畠山 重篤 (著) 2006/11 文藝春秋 新書:278p
Vol.3 No.0364 ★★★☆☆
1)畠山重篤関連リスト
「森は海の恋人」1994/10 北斗出版
「歌集 森は海の恋人」 熊谷龍子1997/04 北斗出版
「漁師さんの森づくり 森は海の恋人」2000/11 講談社
「牡蠣礼讃」 2006/11 文藝春秋
「森・川・海つながるいのち」 2011/01 宍戸清孝と共著 童心社
「鉄は魔法つかい 命と地球をはぐくむ『鉄』」 2011/06 小学館
2)この人、詩人でもなければ、ジャーナリストでもない。沿岸部の悲哀を憂うるエコロジストでもなければ、研究室で顕微鏡を覗く学者でもない。れっきとした起業家であり、経営者である。場合によっては投資家的面さえ持っている。
3)かと言って、この人は三陸のリアス海岸に生きる一人の漁民であり、れっきとした牡蠣養殖業者である。いわば、成功者としての人生がある。それは「牡蠣」というキーワードではあったかもしれないが、環境さえあれば、この人なら、別な業界においてもビジネス的に成功をおさめたであろう。
4)「森は海の恋人」とはあまりにもうまいネーミングではあったが、元をただせば、それは熊谷龍子の詩に発する言葉であり、また山に植林することも、漁民としての生産に結びつくことを確実に知っていたが故の現実的な運動であった。
5)この本、2006年の本だから当然3.11以前の本であるが、やや爛熟していて、「森は海の恋人」というさわやかな雰囲気からはかなり「深化」しすぎているように思う。すでに「森は海の愛人」を通り過ぎて、「森は海の腐れ縁」的な腐臭さえ漂ってくるように思う。
6)私も若い時に大病をし、いちばん食べたいものは牡蠣だった。毎日牡蠣を食べたおかげで復活したと思っているので、牡蠣には感謝してもしきれない。30年以上も前のことだが、ひょっとすると、著者が若い時に一生懸命作っていた牡蠣で助けられたのかと思うと、ひとしお「牡蠣礼賛」の気持ちが、大きくなる。
7)しかしながら、牡蠣はもともとヨーロッパにおけるグルメに通じるところがあり、あまりに牡蠣の美味さに蘊蓄を傾けてしまうと、一般には、なんだかなぁ・・・、という?マークがつきかねない事態となる。
8)そこに今回の3.11大震災である。著者の近況は最近著「鉄は魔法つかい 命と地球をはぐくむ『鉄』」 2011/06にわずかに記されている。戦後の混乱期から海に生き、一気に生産者としての頂点を極めた著者が、自分の孫の代までの牡蠣天国を夢見ていたにも関わらず、この災害である。その復興はどうなるのだろう。
9)決して高見の見物なんてものではなく、この人の復活こそ、地域の活性化のシンボルとなるかもしれない。年齢はめされたとは言え、まだまだ現役の雰囲気が漂う。牡蠣や鉄、というお得意のキーワードだけではなく、地域全体、あるいは日本や地球レベルでの、エコロジカルな具体的な復活を期待するのは、私だけではあるまい。
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