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2011/08/14

朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 NHK「東海村臨界事故」取材班

朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)
「朽ちていった命」 ―被曝治療83日間の記録
NHK「東海村臨界事故」取材班 (編集)  新潮社 2006/09 文庫: 221p
No.0398★★★★☆

1)1999年9月30日に起きた東海村臨界事故では、ウラン燃料では、ウラン燃料の加工作業をしていた大内久氏と篠原理人氏の二人の技術者が大量の中性子線をあびて死亡した。二人とも現代医学の最先端の知恵と技術を動員した治療を受けたが、大内氏は83日目に、篠原氏は211日に最期を迎えた。本書は、岩本裕記者を中心とするNHK取材班が、大内氏に焦点をあてて治療と闘病の経過を追ったドキュメントだ。p216「解説」

2)2002年に単行本として出版されたものが、2006年に改題して文庫化された。

3)ごく微量の放射線をあびることによって、毒が毒を制するような健康法、ホルミシス効果があるとされる。よく行く友人の治療院で、私はこの施術を知らないうちに体験していたのだった。もちろん、希望を聞かれ、受けるか受けないかは任意である。そしてこの施術にかかる医療費は無料である。

4)私は年間に定期健診で最低でも一度はレントゲンの放射線を浴びている。たまに歯科でレントゲン撮影をする時もある。でも、それは、管理された中での、ごく限られた安全な使用法ということになる。

5)かつて、30年以上前には、がんセンターで放射線治療を受けたことがある。若い時期だったので、病状もよく聞かないままだったが、半年の入院過程の上で、放射線を治療として、都合20回ほど浴びているはずだ。その効果があったと見えて、この30年間、再発の兆しはない。

6)私の放射線体験に比すれば、この東海村臨界事故で、二人の技術者たちが浴びた放射線量は、比較にならないほどの莫大なものであった。被曝した段階で「即死」とほぼ同じ意味を持っていた。染色体が破壊され、生命が再生されない状態になった。絶命するまで、83日とか211日とか経過はしたが、それは単に「死」が緩慢に訪れる、というだけのことである。それだけ苦しみも長くなる。

7)今回の3.11事故で外界に放出されてしまった放射線や放射性物質の影響は如何ほどのものになるのか、今のところは定かではない。スリーマイル島やチェルノブイリ、そしてこの東海村など、度重なる原発事故の結末から類推していくしかないが、その影響は膨大なものと推測されている。

8)今回の3.11における原発事故において、施設内における直接の莫大な被曝は、自分のものとして想定することはむずかしかった。しかし、本当にそうだろうか。

9)今回の津波事故でも、沿海部の人間がたまたま所要で内陸部にいたために助かった例がおびただしくある。逆に、内陸部の人間が、たまたま所要で沿岸部にいたために死にいたったケースもよく耳にすることである。

10)原発事故においても、その可能性はない、とは言えない。たまたま、施設の近くを通りかかる可能性はゼロではない。いや、日常的に存在していると言える。

11)今回の3.11に関連する原発事故でも、ほぼ偶然ではあったにせよ、親戚の家族は、原発施設から20数キロ圏内で生活していた。しかも、病院勤務という職業上、すぐその町を離れることはできなかった。一般的に考えても、かなりの量を被曝している可能性がある。

12)思えば、東海村臨界事故の場合でも、あとでわかったことだが、この事故のおこる直前まで、親戚の男性が、この施設の責任ある立場にいた。タイミングさえずれてしまえば、事故の責任を負って逮捕される可能性も十分あった。

13)声は奪われても、顔の表情や体全体で気持ちを伝えてきた大内は、心停止を境に、家族のよびかけにも応えなくなった。もはや機械と薬に支えられて行きていた。
 面会に訪れた家族の言葉が、看護記録に残されている。
 母は息子によびかけた。
 「久、がんばってね」
 父は耳元で語りかけてた。
 「最後までがんばるんだ!」
p146

14)こうして35歳のひとりの男は、妻と小学三年生の息子を残して、この世を去った。

15)がんばろう、とは思う。だけど、すでにがんばるための基礎的な命が失われていた。まさに朽ちてしまったのだ。

16)「汚染はされていますが、ただちに健康に影響のある数値ではありません」というアナウンスを、3.11以降、何回も聞いた。そのアナウンスはそれはそれとして聞いておこう。しかし、このようなアナウンスは「健康に被害を及ぼす可能性がありますので、ただちに避難してください」というアナウンスに、いつ何時でも変わり得るのだ、ということは明記しておかなくてはならない。

17)そしてまた、被曝、即、死へのカウントダウン、となる可能性もある。それは、施設内の限られた技術者達だけの問題ではない。いついかなる時に、私たち自身に降りかかってくるかわからない。

18)この本、コンパクトで、中に4ページ程のカラー写真もついて、一気に読めてしまう。どの施設、どの地域においても、想定外の事故は起こり得る。しかし、その可能性の中でも、人類が生み出した可能性としては、原発や核燃料技術は、もっとも毒と悪を秘めた存在であることは間違いない。

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