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2011/08/01

災害そのとき人は何を思うのか 広瀬弘忠他

【送料無料】災害そのとき人は何を思うのか
「災害そのとき人は何を思うのか」 

広瀬弘忠/中嶋励子 2011/07 ベストセラーズ 新書 190p
Vol.3 No.0379★★★☆☆

1)3.11天地人の中では、この本は人の範疇にはいる。災害・リスク心理学を専門とする人びとの、3.11を受けての、調査を含むレポートではあるが、より人に焦点が合っており、これまでの研究や学説を紹介する形になっている。

2)災害心理学は、災害時における人間の心理や行動を研究するだけでなく、人間や社会のあり方が、実際に、災害の被害を大きくしたり小さくしたりするメカニズムを明らかにしようとする学問分野である。p3「はじめに」

3)人間を量としてとらえようとしている限り、旧来の心理学的傾向性が強く、必ずしも、「思想としての3.11」のように、思想、哲学、宗教の方への探究が進むわけではないのであるが、地としての原発事故が、早期に解決方法に向かわず、右往左往してしまっている現状への鋭い指摘となっている面はある。

4)人は災害を恐れる半面、災害が起こることを期待してしまう傾向がある。この感情を「ウェイティング・ディザスター」と呼ぶ。
 災害は害のみを与えるものではないという考え方がある。台風やハリケーンは渇水を防ぎ、地震や火山の噴火も新しい生命の胚胎を生み出し、落雷によって火災が起きれば、森林の枯れ木が燃えるが、新しい木が芽吹く。
p77「災害を待つ心理」

5)誤解を恐れず、この際だからメモしておこう。震災直後、街全体が、さまざまな非日常の風景に見舞われたのだが、ことのほか気になったのは、普段、引きこもりとか、孤立したライフスタイルを持っている人たちが、割とニコニコ(表現が違うかもしれない)と人々の中にでてきたことである。

6)普段からの日常があまりにも息苦しく、居場所を失って引きこもりになっている人たちもいるかも知れない。そのような人々にとって、普段と違う風景は、なにか別の可能性のある世界として見えていたのではないか。社会が平静を取り戻すと、次第に彼らの姿もみえなくなったように思うのだが・・・。

7)2012年に何事かのシンボリックなものを見ている人たちもいる。2011年のこの震災を彼らは彼らなりに見つめているのだろう。

8)人は生き残るようにプログラミングされている。生存が危ぶまれているような過酷な状況に置かれても、なんとかして生き抜こうという習性を持っている。飢餓や災害など、これまでに経験したことのない、または想像したことのない生死にかかわるような危機的状況においては、たとえ他者を犠牲にしてでも自分だけは助かろうと、あらゆる手段を用いて生き残ろうとする。p110「『パニック』の心理」

9)この本、なかなか面白いのだが、どうも一般的な常識について、学術的なカタカナ用語を冠することによって、整理されていくだけで、ここ、というところのズバリな突っ込みが少ない。

10)パニックを過度に恐れる必要がないのは、われわれだけではなく、情報を提供する側も同様である。大きな災害や事故の際、大勢の人びとに混乱を起こすまいとして、すなわち「パニック」を起こすまいとして、情報の発信を遅らせたり、事実を過小に伝えたりすることがしばしばある。
 これを「エリートパニック」と呼んだりする。
p130「同上」

11)すでに死亡しているのに、子供達が駆けつけてくるまでの二次災害を恐れて「チチキトク」のような電文を打つ心理に似ているだろうか。それにしても、今回の原発事故にせよ、中国の電車事故にせよ、情報が開示されないのは、発信側の都合によるように思う。「パニック」のエネルギーが自らに向かうのを恐れているかのようだ。

12)多くの災害は人間の行動や心理と深く結びついている。私たちは複雑にからみ合った関係を解きほぐしていく必要があるのだ。p187「あとがき」2011年6月30日

13)どうにか理解しようと、あちこち抜き書きしてみるのだが、いまいちフィットしない。3.11天地人のうち、人の分野に入るのは、今しばらく時間がかかりそうだ。まずは天である地震・津波を把握し、地としての原発事故全体像を捉え、その後にこそ人としての3.11が見えてくるのかもしれない。

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