原発震災が大都市を襲う 次は首都圏か!? 船瀬俊介
「原発震災が大都市を襲う」 次は首都圏か!?
船瀬俊介 2011年05 徳間書店 単行本 335p
Vol.3 No.0388★★★★☆
1)ちょっと大げさなタイトルではあるが、出版社が徳間書店であってみれば、読む方も、「ああ、徳間書店か」と、すこしはゆとりを持って、この本をめくることができる。
2)地湧社からでた「巨大地震が原発を襲う チェルノブイリ事故も地震で起こった」(2007/09)に大幅増補改訂されて、3.11後の4月6日に脱稿されて再刊されたものである。
3)3.11後の原発本には増補改訂版がきわめて多い。緊急性を要しながら、すぐには一冊の本としてはまとめられない、という事情もあるだろう。しかし、巨大震災や原発事故がなかったら、永遠にオオカミ少年として葬り去られかねなかった筆者たちの、必死の叫び声もまた、再刊という事実に込められているようでもある。
4)小出(裕章)氏は、わたしにとってもっとも信頼でき原子力専門家である。彼はクーラーも使わない。エスカレーターにも乗らない。その誠実さ、高潔さには頭が下がる。p21「最大級の大惨事 これは犯罪的な人災である」
5)たしかに、菊地洋一「原発をつくった私が、原発に反対する理由」のように、一度は原発建設の場にいながら、後に反原発・脱原発に転じた人物は多いが、小出裕章は、大学で原子力を学んだ時点でその間違いに気づき、その後一貫して脱原発で研究をしてきた人物である。
6)それにしても、クーラーも使わず、エスカレーターにも乗らない、という矜持を保つことは、それなりにカッコいいライフスタイルではある。
7)そもそもレントゲン検査と原発被害をいっしょに論ずること自体が論外で無茶だ。レントゲン検査はその場で終わる。放射能汚染は下手をしたら一生続く。それに、原発被害は、これら外部被ばくより、さらに恐ろしい内部被ばくが襲いかかる。いわゆる「体内被ばく」だ。メディアに登場する専門家たちは一様に「体外被ばく」の注意はする。しかし「体内被ばく」については、口をつぐむ・・・。p240「『ただちに害は・・・?』 悔いても遅い放射能障害」
8)確かに震災直後の報道と、すでに5カ月近く経過している現在では報道の質が変化してきている。少なくとも、この内部被ばくが大変なことになる、ということは、現在、一般的な共通認識になりつつある。
9)メディアが国民に対して行った解説では・・・・
1)2.4ミリシーベルト:一人あたり年間自然放射線の被ばく量。
2)7ミリシーベルト:胸部X線(1回)被ばく量。
3)27ミリシーベルト:福島第一原発で3月20日、隊員、最大被ばく量。
4)100ミリシーベルト:健康に影響が出るレベル。
ここで解説していた放射線専門学者は「100ミリ浴びても疲労を感じる程度。それでもすぐ回復します」と呑気で無責任なもの。将来の発ガン潜在的な被害については、「まったく触れない」。実に悪質だ。p249「同上」
10)地震や津波の被害は実にわかりやすい。そのほとんどは直ぐに目に見える形で現われる。それに比較すると、原発事故は、現場での爆発事故などは目に見えるものの、放出された放射性物質の被害は、一般的にはまったく分からない。無味無臭、無色透明で、ドシロートのわたしなどには、何もわからない。誰かが指摘してくれてようやく分かる場合もあるが、すぐにはピンとは来ない。だからこそ、専門家たちの責任は重いと言える。
11)これら高濃度の放射線を浴びると短期で「急性症状」が現われる。
▼150ミリシーベルト:男性は生殖機能が大幅に低下する。
▼500ミリシーベルト:白血球が減少していく。
▼1000ミリシーベルト:悪心(おしん)、嘔吐、脱毛が起きる。
▼7000ミリシーベルト:死亡の可能性が高まる。
放射能の恐ろしさは、「五感に感じない」ことだ。p254「同上」
12)放射線治療としてだが、私も被ばくしたことがあるので、疲労感、悪心、嘔吐、脱毛は、自らの体験としてよくわかる。
13)放射線の被ばく量は、物体が吸収したエネルギー量で測る。単にはグレイ。物体は1キロ当たり1ジュール(0.24カロリー)のエネルギー吸収をしたときの被ばく量が1グレイ。4グレイ放射線を浴びると半数の人が死ぬ。つまり、半数致死量となる。8グレイの被ばくでもはや絶望的。(1999/09東海村JCO事故の)三人の被ばく量は大内さん(18グレイ)、篠原さん(10グレイ)、横川さん(3グレイ)。p257「同上」
14)ベクレルやらグレイやら、さまざまな単位がでてきて、しかもスケールが大きいのか小さいのか、はっきりしないので、一般人としてはなかなか実感することができない。
15)食品の暫定規制値(厚生労働省が設けている)1キログラムあたりのベクレル値
放射性ヨウ素 飲料水 牛乳・乳製品 300
野菜類(根菜、イモ類を除く)2000
放射性セシウム 飲料水 牛乳・乳製品 200
野菜類 穀類 肉、卵、魚、その他 500 p264
16)このほか、EUや米国が定めている基準も併記されているが、日本の基準と著しく違っているとは言い難い。
17)3.11東日本大震災において、個人的に我が家が被ったのは、ほとんどが地震被害だった。津波や原発事故などは「想定外」だった。しかし親戚友人知人をたどってみれば、津波被害も実に甚大であった。そして、今となってみれば、原発事故の被害は、大きな死の灰となって我が身に降りかかりつつある。他人事ではない。
18)普段から緊急用の避難袋は用意していたし、今回は幸いにして、その範囲で用は足りた。普段の備えが役に立ったと言える。しかしながら、これかはら移動中や拡大する家族の行動範囲のことを考えれば、津波も原発事故も十分念頭に入れて、万が一に備えていかなければならない、ということになってしまった。
19)非常用食料、水、衣服の替え、などは当たり前として、マスク、ビニールカッパ、放射線測定器、ヨウ素剤などを加えなくてはならなくなったのだ。
20)徳間書店流の、この本のタイトルのようなことが、起きることを願っている人など誰もいない。起きないにこしたことはない。しかし、3.11を考えてみれば、起きないなどと断言できる人もまた、一人もいない。
21)オオカミ少年たちの警告に、何の根拠もないのであれば、それは笑って済ませることができる。しかし、根拠はある。備えあれば憂いなし。そして避けられない天災であってみれば、できるだけ被害を少なくする努力をするしかない。そして、人事でもって避けることができるのであれば、極力努力して避けなければならない。
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