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2011/08/09

原子力 その神話と現実 高木 仁三郎・他・翻訳

【送料無料】原子力その神話と現実増補新装版
「原子力その神話と現実」 増補新装版
リチャード・カーティス/エリザベス・R.ホーガン(著)、 高木 仁三郎/ 近藤 和子/ 阿木 幸男 (翻訳) 2011/07 紀伊国屋書店 単行本 251p
Vol.3 No.0391★★★★☆

1)あなたは、本書の中に、原発を擁護する理論を見い出すことはないだろう。その代り、注意深い調査と充分な事実の検討によってもたらされる、あらゆる面での強い反対の意思を見出すだろう。一方、金銭と人間の両方の面において、「原発は高くつく」という圧倒的な証拠を見い出すことになる。それは限定された利益にも値しないのである。2011年5月 pxvi 「新装版刊行にあたって--日本の読者へのメッセージ」シェル・ホロウィッツ

2)この本もまた、旧本の3.11後に復刊された一冊である。英語の原書は1980年に出ており、日本語の翻訳は1981年にでている。

3)最新の情報に疎くなる「読書ブログ」として、ネット情報からは一歩も二歩も遅れた確認作業となりやすい。それにしても、これだけ何冊も「古い」本を連続して掴まされているのは、理由がある。

4)ネットでのSNSなどの発達により、配達される日刊新聞を読まなくなって4年以上が経過した。そして3.11以降、テレビ、ラジオ、インターネット以外の情報源は極めて細くなり、しかも、3.11天地人の中の、天としての地震・津波の被害に対処する必要のほうが緊急であり、当ブログとしては、意識して地としての原発問題を後回しにしてきた。

5)一般書店が今だ復活しないばかりか、いくつかの書店が廃業に追い込まれる中、数カ月して復活してきた図書館ネットワークであるが、ようやく、原発問題を読みこもうとし始まったのは、この数週間のことである。

6)読書ブログとしての当ブログのスタイルは、ネットで図書館の新刊本コーナーを見て、ネットでリクエストして、ネットで到着を確認してから図書館の窓口で本を受取り、自宅で読む、というものである。

7)したがって、本そのものをよくわからないまま自宅に持ち返るということがよく発生する。

8)新刊本コーナーは、常に新着本でにぎわっているが、人気本は常に前からの予約が殺到しており、私の順番が来るまでにはかなり時間がかかる。したがって、予約がはいっていない、すぐ読めそうな本をまずはリクエストしてしまう、という現象がおきる。まずは、質より数で「原発問題」を読み込もうとしている現段階である。

9)しかし、せっかく3.11以降に発行されたことを確認してリクエストしても、これだけ「旧本」をつかまされると、いよいよ、これは行列に並んでも(待ち時間がながくても)、人気本を読むべきだろう、という感じにはなってきた。

10)それにしてもである。原発問題に関しては、なぜにこれだけ「旧本」の復活があるのだろう。5年や10年前の本ではない。10年、20年、30年前の本が、今日的意味を持って、再登場してくるのである。いや、今こそ読まれなければならないのだ、という強い姿勢を見せながら、再登場してくるのである。

11)「ただ今より、放送を中断して・・・・」という言葉が流れると、人々の脈拍は速くなり、息を凝らして、次の言葉を待った。指を唇にやり、ただちにおしゃべりも止まってしまう。皆、前のほうにのり出し、悪いニュースを予想して、危惧しながら、耳を傾ける。p132「放送を中断して・・・」

12)このシーンは、今から30年前に書かれた喩え話である。しかし、この喩え話が書かれた30年後に、私たちは、その現実と遭遇することになった。

13)まず、アナウンサーの言葉を聞いて、聴衆はとまどってしまう。「市の北方にある原子力発電所で一時間前、爆発が起こりました。放射線学の専門家が現在、被害の程度を推測していますが、放射能汚染の可能性のため、周辺地域の避難を行う必要があるかも知れないという報告を市の役人は受けています」p132「放送を中断して・・・」

14)3.11以降、日常的にこの風景にさらされているのは、一地方都市のみならず、列島全体、そして、地球全体だ。

15)しかしながら、アナウンサーの次の発表でまちがいなく、人々の心臓の脈拍は恐怖で速くなるのだった。「私たちの局がインタービューした原子力物理学者の報告によれば、ある天気の状態下では、直径150キロの地域は影響を受けるだろう。原子炉のある地点から80キロ以内のすべての町の住民はもちろん、この市の全住民も影響を受ける可能性がある」。p132「放送を中断して・・・」

16)私も含めて、30年前のこのメタファーとしての警告を、自らのこととして聞いた人間はどれだけいただろう。そして、30年後の今日、この現実を否定できる人間もまたひとりもいないのだ。東電原発からちょうど80キロに位置する我が家ではあるが、もう一方の原発からの距離を見ると、60キロとなる。ましてや、今回の事故においては150キロ圏内どころではない広域にわたって被害がでていることが、すでに科学的に証明され、報告されている。

17)それから必ず、次の言葉が続く。「この地域の住民は冷静に待機し、これからのラジオの速報に耳を傾けるようにしていてください」。p132「放送を中断して・・・」

18)30年前とは違い、2011年の地球人たちは、ツイッターを初めとするネット情報で盛んに情報を集め、自ら情報を発信する。しかし、3.11以前から、キチンと準備ができていたという人はどれほどいることだろう。

19)この発表に準備はできていますか。あなたの町はいかがですか。市の病院と衛生機関は? 民間衛生は? 州政府や連邦政府は? あらゆる面から見て、答えはノーである。この状況は国民生活のすべての分野に及んでいる。明らかに、この重大な災害に対処しうる、もしくは対処し始めうるような計画はつくられていない。p132「放送を中断して・・・」

20)「あらゆる面からみて、答えはノーである」。たしかに準備不足であった。わが家のリスクマネジメントも、3.11天地人としての災害に対する準備はほぼ完ぺきであると思われていたが、原発事故対策は、まったく抜け落ちていた。

21)原発事故がここまで影響を及ぼすなど、誰が想定していただろうか。いやいや、想定はされていたのだ。その証拠のひとつがこの本である。しかし、まことしやかに流布された、原発の安全神話と、事実が知らされない、あるいは事実は知ろうとしないという環境の中で、重大な事故の可能性をまったく予知することができないでいたのである。

22)現在ではまだ原子力の経験は限られているので、原子力問題に関するじかの知識を得る機会をほとんどの保険会社はもっていません。それに加えて、原子力の危険にまつわる保険評価をする部門を手伝う熟練の技術的スタッフを開発した保険会社はほとんどありません。p184「保険と助成金のスキャンダル」

23)今回の3.11被害に対して、民間保険会社が支払った地震保険金は1000億を超えている。現地の一代理店平均にしても数億円から数十億円を支払っている。それもこれも地震保険を日本政府が再保険する形になっているからだ。ただ、原発事故に対する備えはほとんどできていなかった。

24)原子力の大災害の被害は、産業界で以前より知られているものよりも明らかに何倍も大きく、そのことが保険会社に大きな障害となるのです。起こりうる最悪の条件下で大災害の可能性を評価すると、単に何百万ドル、何千万ドルというのではなく、何億ドル、何十億ドルもの被害になると聞いたことがあります。もし、実際にそんな事故が起こり得るとしたら、そんな規模の危険性が許されるべきものかどうかについては、公共政策上で問題にする方が妥当でしょう。p184「保険と助成金のスキャンダル」

25)この30年前の警告が、あまりにもリアリティを持って今日的であることに驚く。つまり、十分に「公共政策上で問題」とされてこなかったのだ。しかも、問題はもっと深刻になってしまっていた。

26)そう言った意味において、この30年前の本をめくることは、大いに意義がある。私の他に予約が入っていなかったのが不思議なくらいだ。既にもう読んだという人も、もう一度、読んで、真にこの問題と面と向き合うべきだろう。

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