原子炉解体新装版 廃炉への道 石川迪夫
「原子炉解体」 新装版 廃炉への道
石川迪夫 2011/04 講談社 単行本 341p
Vol.3 No.0390★★★★☆
1)この時期、このようなタイトルの本が流通しているとすれば、反原発・脱原発派の痛烈な反撃の一発!だろう、と思いがちだが、実は、原発推進派(と思われる)の研究者による技術書であり、しかも1993年4月という早い時期にでていた本である。3.11東日本大震災による原発事故を受けて、この本もまた震災一カ月後の4月に新装版として再刊されている。
2)今後も、耐用年数を迎え廃炉となる原子炉はなくならない。安全な原子炉を造ることが大切だった時代から、安全に原子炉を解体する時代へと移行している。この度のような未曾有の事故を経験した国として、廃炉についての技術と正しい認識を持つことが必要だろう。2011年4月2日 pvii
3)技術者でも研究者でもない一市民としては、原発の理論や仕組みを聞いたところで、どうにもならず、廃炉をしようと思っても、どうすることもできない手の届かない世界のことである。少なくとも「廃炉」しようという動き、研究、技術者には、はるか遠くから、静かに、暖かい称賛の拍手を送る以外に手はないではないか。
4)土壌汚染の問題は、原子炉の解体・除染のように簡単ではない。雨や風によって汚染領域が動き広がるのに加えて、放射性物質が草や木に吸い上げられ、それがまた土壌に帰るというサイクルを繰り返す。そしてその一部が動物の飼料となるという形で薄まりながら拡大していく。
汚染の状態がはなはだしい場所は、表土を取り換えることで修復することが可能であるが、広く薄く拡大した汚染に対しては、時間経過によって放射能の減衰を待つ以外に方法はない。p298
5)1993年という時代は、スリーマイル島やチェルノブイリの原発事故を体験した後だったが、日本としては東海村や3.11東電原発事故を体験する前だった。その時点からすでにこれだけの認識がされていたのだから、いかに物事の進みが遅いかが分かる。分かっていながら、障害物をよけきれずに激突してしまったのだ。
6)まだ確立した学問とはいえないだろうが、放射線ホルメシスと呼ばれる新しい研究分野の人たちである。「ホルメシス」とはギリシャ語で、毒薬でも少量ならば薬になるという有用性を示す言葉であるらしいが、放射線も同じで大量に被ばくすれば生体を損なうが、微量であれば生体に有益であると主張する研究分野である。p298
7)このホルメシス(=ホルミシス)は、中村仁信「低量放射線は怖くない 日本人の放射線アレルギーを吹き飛ばす!」の根拠となっている考え方だが、著者が言う通り、「まだ確立した学問とはいえない」だろう。また、巨大事故を起こした直後に、科学者たちがもちだすような話題ではないはずだ。
8)この本に書かれていることは寿命を迎えた原子炉をいかに技術的に「安全で安価に」解体するかという真面目な本であり、著者がいうように、他に類書は多くないようだ。しかしこれはあくまでも、事故を起こす前の原子炉についての技術なのである。
9)廃炉工事などでは作業全体の被ばくを考えるうえで、「集団実効線量当量」と呼ばれる「人・ミリシーベルト(人・mSv)」という単位を導入している。たとえば一人あたりの実効線量当量が1ミリシーベルトであったとしても、この作業に10人の人が従事したのと、100人の人が従事したのとでは、工事全体の被ばくの量に10倍の差が生じる。p62
10)この本においては、通常の原発を廃炉する場合の技術や労働について語られている。原発に限らず、工事や現場における危険度はある程度覚悟しなければならない(もちろんゼロをめざさなければならない)ことは理解できるが、その敷地内とか、特殊な任務の人々における危険度である。
11)しかしながら、3.11以降、私たちが被っているのは、広大なエリアにおける無差別な危険度のアップなのだ。ましてや、若い人たちや子どもたち、ひいては胎児、そしてまだ生まれてさえいない未来の地球人たちが、危険にさらされている、ということになる。
12)今後の全ての原発の廃炉においては、本書のような技術や知識は大いに役だろうし、暖かい視線を送りながら、彼らの作業を遠く見守っていくしかない。かたや、3.11以降、このような、おだやかな「廃炉」への試算とかをしている場合ではないだろう、という危機感もつのる。
13)癌や白血病の発病率・死亡率の増加などをもたらす「確率的影響」の方はどうであろうか。多くの研究によって、ある程度まとまった量の放射線を浴びた場合には、その量に応じて癌などの発病率・死亡率が増加することが明らかになている。p65
14)一般人はすべてにおいて、これらの知識が不足している。その立場にある人びとは、責任を持って、指導し、啓発しなければならない。
15)自然に発生した癌と放射線によって発生した癌との間にはなんら差がなく区別がつかないから、微量の放射線を浴びただけではその確率的影響は、もともとの高い自然発生率に隠れてしまうのである。p65
16)総論としての放射性物質による汚染、なかんずく人体への影響を知ることより、今や、各論として、自分に降りかかっている危険度がどれほどのことなのかを知ることのほうが、より緊急の課題となっている。
17)東電原発より80キロ圏におり、常時、屋内や庭などで0.1μSv/hの放射線を浴びている私は、今後、食物などを通じてどのように体内被ばくが加算されていくのだろうか。50代後半という年齢も加味しなければならない。そして、未来ある子どもたちはどうなる。今生まれようとしている孫たちはどうなる。それを知らないでいるわけにはいかない。
18)はたして原子力は人類期待のエネルギー源として活用され続けるであろうか。はたまた、共通の言語を失い崩壊したバベルの塔のように、人類そして高度な科学技術とともに崩れ去ってしまうのであろうか。これは一に国民全体が共通の理解を持とうとするか否かにかかっている。p300
19)原発の問題は、すでに国を超えて地球全体の問題となっている。地球人全体が共通の理解を持たなければならない時期に来ている。旧ソ連、アメリカ、に続いて、それを上回る事故を起こした日本。原発は危険であるから全て「廃炉」にする、という共通の決意を持たなければならない時期に到達してしまったのだ。
20)東電原発事故は、5月経過しても終息の方向が見えていない。これから長い長い廃炉、原子炉解体への道が続く。無力感に襲われるが、諦めるわけにはいかない。
21)著者は1934生まれ(現在77歳)。日本における有数の研究者。他に1950生、1962生、1963生の研究者たちが協力して、この本ができている。
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