ECOシティ 環境シティ・コンパクトシティ・福祉シティの実現に向けて 丸尾直美他<1>
「ECOシティ」 環境シティ・コンパクトシティ・福祉シティの実現に向けて <1>
丸尾直美/三橋博巳他 2010/05 中央経済社 単行本 246p
Vol.3 No.0454 ★★★★☆
1)3.11被災地の復興案として、エコシティ、エコタウンの文字が躍る時がある。その傾向性、そのニュアンスから、私などは率先して耳をそばだてたくなる。一体、それはどんなことなのだろう。
2)本書は、魅力あるECOシティの構想であり、その実現を目指す。それは
(1)環境にやさしくて、公害がなく、景観が美しい環境シティである。
(2)福祉に配慮して、人々が住みやすい環境を整えた福祉のまちである。
(3)便利で経済的に効率的な職住近接のふれあいのあるコンパクトシティである。 p1「はじめに」
3)当ブログにおいては、このジャンルの本を「エコビレッジ」というカテゴリでひとまとめにしようとしている。ビレッジであろうと、シティであろうと、タウンであろうと、エコと称されるかぎり、それほど大きな違いはないだろう、と、ざっくりとまとめている。
4)この概念において、読書を進めようとするのだが、必ずしも関連書籍は多くない。ましてや3.11以降となると、網羅的で再録的な記録はあるが、まだ具体性に欠き、説得性に不足しているものがほとんどだ。この本は3.11以前、ちょうど一年前に発行された本である。
5)海外の事例なども多く紹介され、国内の試みなどもいくつか紹介されている。形式としては、5人の学者によるオムニバス状なので、すこし学術的で、読み物としては堅苦しい。
6)「コンパクトシティ--東北からの挑戦--」として、13程の市町村名が上がっている。青森県三沢市や、岩手県久慈市とともに、わが宮城県仙台市も紹介されている。
7)3.11においては、これら多くの自治体が被災している。とくに岩手県久慈市などは、大打撃である。私もその現地の状況をかいま見ることができたが、ただただ言葉を失うだけだった。
8)しかし、もし3.11以前から、このようなECOシティづくりに着手していたとすれば、復興案では必ずや積極的な提案がされるはずであり、今後のその経過を期待を込めて見詰めつづけていきたいものだと思う。
9)(あすと長町)
仙台都市圏南部に位置する長町は、仙台市基本計画において、仙台を支える広域拠点として位置付けられている。その中核を担うのは「あすと長町」である。
あすと長町は、生活拠点機能と芸術、文化、産業などの高次な都市機能が集積する複合型の広域拠点の形成を目指した土地区画整理事業であり、施工者は独立行政法人都市再生機構である。
中心となるJR東北本線の長町駅の東口には、交通の要所として駐輪場や、バス、自家用車の乗り換え機能を集約する交通広場が整備される予定である。
2006年度には都市づくりの基本的な方向性の方針として、「創造と交流 仙台市都市ビジョン」が策定された。ここでは、(1)「創造都市」、(2)交流都市、(3)機能的集約型都市の形成、(4)「杜の都」の再構築、の4つの基本的な方向性が示されており、持続的な発展が可能なコンパクトな都市構造への転換を勧めることが必要であることが指摘された。p147「コンパクトシティ--東北からの挑戦--」
10)期待せずしてこの町の名前がでたのはうれしい。あすと長町についての、私の個人的な印象は次のとおり。
11)そもそも元国鉄の貨物列車操作場の資産売却にともなう広大な敷地と近隣の乱開発の住宅地との連動した区画整理事業であり、その動きはすでに30年の歴史がある。
12)JRや地下鉄網に隣接した広大な敷地は、他に多くなく、副都心構想のなかで、老朽化した市役所を移転する計画もあった。
13)バブル期からの計画で、一時、コンサートホールなども案としてはでていたが、立ち消えになった。今では、その一角に、老朽化した私立病院の移転が決まっているようだが、着工の槌音はまだ聞こえない。
14)遺跡発掘調査などもあり、広軌道の幹線が開通したのは、ほんの数年前のことである。区画整理された広い土地の入札が行われたが、この数年の度重なる不況のなか、入札はなんども不調となって、いまだに販売先がきまらない大型土地がごろごろ余っている。
15)したがって、土地の販売金をあてにした区画整理事業は、遅々としてすすまず、一時は、怪しい中華街の高層ビル導入の話まででてきたが、さすがにこれは中止になった模様。
16)そんなこんなしているうちに、あちこち狭いところから虫食い的開発が進んでおり、かならずしも、本書におけるECOシティとか、コンパクトシティなど、絵に描いたようなプランが進んでいるとは思えない。
17)そして3.11。仙台市としては、若林区の沿岸部が大きく被災した。沿岸部に建てることができなかった仮設住宅は、区を超えた太白区のこの土地に何百件かが設置されることになった。
18)仮設住宅は、法的には2~3年でなくなることになるのだろうが、場合によっては、もっと長期化する可能性もある。
19)しかしながら、考えてみれば、3.11以降におけるコンパクトシティ構想が議論されるとするならば、この「あすと長町」における実体調査は、なかなか興味深いものになるのではないか、と思える。
20)実は、この地域は、1級河川を挟んだ、わが住まいの隣接地域にあり、いつもお世話になっている公立図書館はこのエリアに存在している。
21)いつもウォーキングでこのエリアを通りながら、どんな町ができるのかな、と楽しみにしているのだが、そこに「ECOシティ コンパクトシティ」などのコンセプトが入っているとすれば、これから何年、何十年とかけて見詰めつづけていく価値はあるな、と思い始めた。
22)「創造と交流」の文化機能とうまくマッチするかどうかはともかくとして、実はこのエリアの隣接地域にあのダダイスト糸井寛治が住んでいる。知る人ぞ知る存在だけに、すでに90歳にならんとするダダカンではあるが、最後の最後のパフォーマンスを、このエリアの「文化的施設」で、いつか披露してくれるのではないか、と心密かに待ち望んでいる(怖れおののいてもいるw)。
23)この本は、3.11より1年前に、それぞれの研究経過発表の場を作った、というような本なので、あまり今日的ではない。三沢市や久慈市などの被災地の再調査なども含め、今後の長期的なアドバイスと調査が期待される。
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