「東北」共同体からの再生 東日本大震災と日本の未来 増田寛也他
「『東北』共同体からの再生」 東日本大震災と日本の未来
川勝平太/東郷和彦/増田寛也 2011/07 藤原書店 単行本 178p
Vol.3 No.0438★★★★★
1)静岡県知事、元オランダ大使、前岩手県知事、三人の鼎談が軸となっており、基本的には、「外部」からの「がんばろう!東北」である。
2)言っていることは正しそうだし、共感できる部分も多い。しかし、それを誰がいつまで実行するのか、責任と主体はどこにあるのか、そこが見えないことには、結局は絵に描いた餅でしかない。
3)宮城県は仙台平野に優良な農地がいっぱいあって、そこが今水浸しになっている。そこの農業も絶対に再建する。もちろん二次産業、三次産業も大事ですが、やはり沿岸では一次産業が一番の生業であって、陸に上がったら漁師さんたちは生きていけません。ですから水産業と農業は再建させる。p53増田「『減災』の重要性」
4)いかにもこれじゃ、東北の一次産業が大震災でつぶれてしまったような言い方だ。実際には、結城登美雄の「東北を歩く 小さな村の希望を旅する」などに見るように、東北の一次産業など、とっくに見放されているのだ。地震や津波での災害から立ち直ることはできるだろう。しかし、その前に、根本的に、国家経済システムの中で、農業、漁業、林業、畜産業などは、すでに辺境に置き去られている。
5)増田 菅さんは大震災の後、被災地について、記者会見で山を削ってエコタウンを造り、そこに移って、漁港に通勤するといってましたが、見てわかるとおり、そもそも三陸沿岸の漁民の生活というのはエコで、クーラーもほとんどつかいません。(中略)
あらためて総理がいうまでもありません。総理に本当にやって欲しいのは、電気を大量消費している東京でエコタウンを実現することですよ。p116「東北は元来エコだった」
6)その菅元首相をひきずり落として、次から次へと責任のたらいまわし。増田本人だって、東京生まれの東京そだち、言っている本人が東京をエコタウンを実現しなければ、所詮、口舌の徒でしかない。自立して、復興しなければならないのは、都市文明だ。廃棄物や原発を辺境に押し付けるシステムを改めなければ、東北共同体うんぬんをするのは、あまりにおこがましい。
7)1990年、衆参の国会議員が全会一致で、首都機能がスケール・メリットよりもデメリットが大きくなりかねないので、過密・一極集中の解消や、防災を実現するために、日本で一番いいところを探そうということを決めて、法律を設けて調査委員会を立ち上げ、10年ほどかけて那須野が原を第一候補に選んだという経緯があります。栃木県と福島県の県境です。そこに9千ヘクタールぐらいの土地がある。川勝p65「首都機能移転の可能性」
8)まぁ、こんな話も実現性はゼロだろう。石原慎太郎などが邪魔して、ぜんぜん動かなくなった。今更、またオリンピック誘致だとか始めているが、ますます東京一極集中化を図っているだけで、すでに賞味期限が終了した前近代的なアイディアしか浮かばないようだ。
9)「コンパクトシティー」という、「都市機能と集合住宅を中心部に集約した利便性の高い街」を提案、「それぞれのコンパクトシティーは徹底した防災や省エネを実施したうえで、先端的な特色をもたせる」「外国の資金やノウハウ、人材を持ってくることを考えてほしい」「もちろん、土地所有など私権の大幅な制限が必要です。困難ですが、成功すれば全国のお手本になります」という・・・(後略)東郷p143「現場・地方政治・国民の底力」
10)コンパクトシティー化すべきは、東京を初めとする首都圏である。理想を他者に押し付けて、自らはのうのうと甘い汁を吸う。昔からズルイ奴らは、どこまでもズルイ。
11)この本は面白い。鼎談は震災後1ヵ月で行われているが、本ができるまで、さまざまな手が加えらていて、示唆している部分は多い。しかし、その面白さは、戯画化された面白さだ。現実味が薄く、他人まかせ、他人に丸投げのプロジェクトである。
12)「東北」共同体、「再生」、という美辞麗句。責任ある人びとが、自らの手を汚さず、他人の庭の設計図の図面を引いている。楽しいだろうなぁ・・・・・・。
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