原発破局を阻止せよ! 広瀬隆
「原発破局を阻止せよ!」
広瀬隆 2011/08 朝日新聞出版 単行本 191p
Vol.3 No.0466★★★★★
1)去年2010年8月に出た広瀬隆著「原子炉時限爆弾」は、当初ほとんど見向きもされなかった。「この本の内容に危機感を持ってくれた」ただひとりのジャーナリスト(p191)週刊朝日の記者・堀井正明の編集によって、震災後、本著のタイトルの連載が「週刊朝日」で始まった。
2)本著には若干のイントロとともに、3月25日号~8月19日号までの連載記事が大幅加筆(p10 )されて一冊の本として収録されている。
3)「著者15年ぶりの反原発書!」という帯の文句にひかれて購入したのが、その年(2010)の8月に広瀬さんが出した「原子炉時限爆弾---大地震におびえる日本列島」(ダイヤモンド社)だった。p7「まえがき--広瀬さんとの出会い」堀井正明
4)私自身は、広瀬隆と広河隆一を混同していたために、どうもこのお二人は反原発のイメージがつよく、まさかこの本は著者の「15年ぶりの反原発書」だとは思わなかった。
5)内容的には、広瀬隆「FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン」(2011/05)と重なるが、こちらは週刊誌に掲載された順に時系列に読んでいくことができるので、原発事故の進行状態が分かる。
6)3.11震災後、書店も図書館も壊滅したため週刊誌など見る機会もなかったが、もともと、わが読書ライフには週刊誌はほとんど入っていない。たまに銀行や歯医者の待合室で手にする程度だ。
7)ごくごく最近になって、図書館で週刊誌のバックナンバーを手にして一気読みしてみたりするが、あまり得手ではない。この記事が連載された週刊朝日も手にとってみたが、他の記事に気が散って、あまり読めなかった。やはり、一冊の本として読めるのはうれしい。
8)これは明白な犯罪です。私は、日本人全員に問いかけたい。放射能の放出を止めてくれと祈るだけでいいのか、もっともっと心からの怒りの声を上げるべきなのではないのか、と。p52「廃棄物の保管は東電本社ビルで」
9)著者は本をだすだけではなく、法的処置も辞さない。
10)ルポライターの明石昇二郎氏と私・広瀬隆は、このままでは次の大事故が誘発されるのをおそれ、それを食い止めるため、7月8日に、(中略)福島県内の児童の被曝安全説を振れ回ってきたことに関して、それを重大なる人道的犯罪と断定し、業務上過失致傷罪にあたるものとして刑事告発した。p164「事故の責任者を刑事告発した理由」
11)「原発のない世界へ」の小出裕章ご本人は、冷房エアコンも電子レンジも使わないという。長崎の沿岸部にある、「もう原発にはだまされない」の藤田祐幸邸は「パッシブソーラーシステム」を導入して省エネに努めているという。1997年の段階だが、ゲーリー・スナイダーは、山尾三省との対談「聖なる地球のつどいかな」の中で、森の中の電源として太陽光発電システムを使っている、と話している。
12)さて、広瀬隆は何を使っているのだろう。
13)現在ではエネファーム(エネルギーを生み出す農場)の名で市販され、わが家ではすでに6年近く使用している。大変バランスよく熱を供給し、一石二鳥の「電気も起こせる給湯器」である。
エネファームのすぐれた特徴は、光化学スモッグの発生原因となるような有害物質がまったく出ないことだ。出るのは水だけ、という完璧なクリーン発電機である。
家庭に設置でき、都会では都市ガスを使い、都市ガスが来ていない地域ではLPガスを使って、電機とお湯をふんだんに生み出すエネファームは、「電気は買う時代から、つくる時代へ」という新時代をリードする発電機のエースである。エネファームを使うと年間5~6万の光熱費を削減できるのだから、10年間で50~60万円が戻ってくる計算になる。
これに太陽光発電と太陽熱温水器を組みあわされたデュアルソーラー住宅も発売されている。一般家庭の電力使用のほぼ全量をまかなうことができ、高熱費を55%削減できるようになっている。p157
14)いずれの方法であろうと、3.11以降においては、原発以外であれば、素晴らしいように見えてくるが、ここでの試算は、必ずしも鵜呑みにはできない。石井彰著「脱原発。天然ガス発電へ 大転換する日本のエネルギー源」でもエネファームを取り上げていたが、一般家庭にエネファームが普及しないのは、まだまだコストが高いからである。
15)6月24日号においては、日経新聞3月23日号の記事「(ビル)ゲイツ氏、東芝と次世代原発」という記事を引用しながら、「次世代原子炉TWR」、「ペブル・ベッド型原子炉」、「トリウム溶融塩炉」、「海底原発」、「地下原発」にもふれながら、なお、全否定する。
16)以上いずれも、これまでの原発とは異なる点をアピールするが、核分裂のエネルギーを利用する原理に変りない。ならば・・・・放射性廃棄物はどうする?p134「新型炉が続々登場 安全な原発とは 新技術導入でも出続ける廃棄物」
17)著者には著者のスタンスがある。太陽光発電や風力発電、あるいは電気自動車などを評価しないばかりか、ほとんど有効なものと見なしていないところなどは、どうも納得はいかない。だが、こと「原発」について考え、とにかくこの「放射能」から逃れるには、著者のいうところのより現実的な方策を探るのは正しい方向性であろうと思う。
18)時にはエキセントリックに感じられる著者の本と風貌だが、むしろ、彼からみれば、なぜ日本人は、この期に及んでもエキセントリックにならずにいられるのか不思議だ、ということになろう。
19)「原発破局を阻止せよ!」。ちょっと過激なスローガンではあるが、より現実を考えれば、そうするしかないのだ。
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