福島原発の真実 佐藤栄佐久
「福島原発の真実」
佐藤栄佐久 2011/06 平凡社 新書 253p
Vol.3 No.0460★★★★★
1)求めに応じて本書を書こうと決意したのは、福島原発事故後の原発政策、ひいては震災後の福島、そして日本のあり方について、これから私たちは真剣に考え、議論しなければならないと思うからだ。いままでのように、上から下りてくるものをただ受け入れるのはやめよう。
個人が考え、地域で議論し、それを市町村に、さらに県に、そして国に-----。これこそが新しい国のあり方であり、地方自治のあり方でもある。
そこで、本書はその議論のたたき台とすべく、なるべく客観的な記述を心がけた。私自身の心の動きを除いて、事実関係や会議でのやりとりは、できる限り議事録や新聞記事などで跡付けを行った。 p250「あとがき」
2)福島原発の歴史、なかんづく18年の長きにわたり著者が福島県知事を務めた間の原発行政の在り方については、貴重な資料となろう。著者自身は、身内の関与したとされる汚職事件で辞任し、その裁判はまだ最高裁で争われている最中なので、第三者としては、いたずらな判断はできない。まずはその経過について書かれているだろう「知事抹殺--つくられた福島県汚職事件」(2009)を参考にしたい。
3)隣県における長期政権を務めた著者については、ほとんど関心を持ったことはなかった。全国ニュースで時折流れる近況を知るのみで、他県のことは他県のこととして、知らなかった。
4)今回、東電原発事故が起きて、あらためて、わが家からわずか80キロのところに、この原発村があることを知り、改めてその危険度を認識した。
5)2006年に起きた、このいわゆる汚職事件も、長期政権だから、このようなことが起こるのも仕方ないのかな、とも思っていた。
6)震災後、3月20日に撮影されたとされるこのビデオも、私自身は一度見たが、原発・放射線より、地震・津波から我が身を守るために必死だったため、最後まで見ることなく、本日まできた。
7)正直言って、本書を見るまで、この人、どこまで信用できる人なのだろう、とすこし眉唾であったことは確かである。もともと自民党の人ではあるし、原発推進派の人であったはずである。
8)財政構造は、発電所が立地している自治体はともに固定試算税比率が高く、福島県全体の町村平均が14%あるのに対して、福島第一原発1~4号機が立地する大熊町47.5%、5、6号機が立地する双葉帳25.9%、福島第二原発1、2号機が立地する楢葉町35.8%、3、4号機立地する富岡町36.1%、広野火力発電所1~4号機が立地する広野町49.2%(現在は5号機も稼働)という結果になった。双葉群全体の平均は38.8%である。p125「国との全面対決」
9)先日読んだ菅野典雄著「美しい村に放射能が降った」の飯舘村などは、多分、原発からの固定資産税などは受け取れていないだろう。もちろん、村民が原発関連の従業員である、ということはあるだろう。逆に言えば、地元においては、その危険性を感じていても、財政問題から、なかなか反原発へと舵を取ることはできなかった面もある。
10)こんなハプニングがあった。平山(新潟県02年当時)知事が、「(発電所)立地県の苦労を知って欲しい。山手線を動かすのは、信濃川の水で動く発電所だ」と訴えると、今まで聞き役に回っていた石原都知事は「それなら、夜はクマしか通らない道路が誰の税金でできているか考えてほしい」と発言し、報道によると会場が「湧いた」のだという。p131「石原都知事の暴言」
11)あの男性にはほとほと嫌気がさしているが、最近の報道によれば、都が主導で、東京湾に天然ガスによる100万キロワット級の発電所を計画しているという。
12)天然ガスこそ脱原発の主力だ、という本も読んだ。よいニュースだと思う。おっしゃる通り、エネルギーも地産地消へと向かうのはよいことだ。しかし、それをなにかのパワートリップのテコとして使おうとするのが、この人物の悪いくせだ。たかが100万キロワットくらいで大きい顔するな、と、少しは言ってみたい。
13)思えば仙台湾にある140万キロワット級の火力発電所も今回被災している(下記写真)。ところがどうしたことか、地元にいても、このニュースはほとんど伝わってこない。もちろん、それなりの地域への汚染などの影響もあるだろうが、原発ほどの影響はない。修理し、いずれ再稼働することになるだろう。もちろん、跡地も利用可能だ。
14)昨日、夜のNHKテレビニュースで、日本原発の「父」とさえ言われる中曽根康弘が、アナウンサーのインタビューに答えていた。本編は一時間数十分あったそうだが、放送されたのは編集された10分くらい。これだけの大きな原発事故が起きたあとにおいても、御本人の意見は、背筋を伸ばしたまま、「これからも悪いところはなおして、原発は必要だ」、という主張だった。
15)日本原燃は民間会社だが、資源エネルギー庁が管轄する、国策会社のようなものだ。経産省はまた嘘をついた。核燃料サイクルは最初から破綻しているのに、嘘を重ねてプルサーマルを押し通し、再処理や安全対策にあえて「不作為」を決め込んだ経産省の存在。それこそが、福島原発事故の「元凶」である。
「あり得ないことが起こる」というのは、「起こるべくして起きている」のだ。p235「原発事故の『元凶』」
16)長く反原発・脱原発を唱えてきた小出裕章や藤田祐幸、広瀬隆という人たちでさえ、今回の原発震災については、起こる前に脱原発を実現できなかったことを、自らの努力が足りなかったように強烈に反省している。いくら知事という立場で、比較的協力的ではなかったにせよ、原発をその立場で「止める」ことができなかったことに、18年も福島の知事を務めた立場の人間としては、責任がないとは言えない。
17)このまま原発を利用していくにせよ、脱原発に舵を取り、廃炉が決定したにせよ、私たち21世紀に生きる地球人すべては、原発と放射線と付き合っていかざるを得ないことになってしまった。いまさら、誰かを「元凶」呼ばわりしてババ抜きしていてもしかたない。
18)求めに応じて本書を書こうと決意したのは、福島原発事故後の原発政策、ひいては震災後の福島、そして日本のあり方について、これから私たちは真剣に考え、議論しなければならないと思うからだ。いままでのように、上から下りてくるものをただ受け入れるのはやめよう。p250「あとがき」
19)まさにおっしゃるとおりです。当ブログも今後、この問題からは目を離すことはない。
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