もう原発にはだまされない 放射能汚染国家・日本 絶望から希望へ 藤田祐幸
「もう原発にはだまされない」 放射能汚染国家・日本 絶望から希望へ
藤田祐幸 2011/08 青志社 単行本 366p
Vol.3 No.0445★★★★★
1)この本を信頼する理由を3つあげるとすれば・・
・この8月に発行された最新刊で、情報が新しいこと
・書いている本人が、真剣に原発問題に取り組んできたこと
・いたずらな希望ではなく、具体的な代替アイディアを提示していること
に集約できる。
2)なでしこジャパンのワールドカップ優勝以来、重い腰を上げて、原発関連本の読み込みをしてきた。7~80冊を読み込んでみたところ、きわめて興味深い本も多いが、以前に発行された旧本も多かった。もちろん再読する価値はあるのだが、いまいち3.11を踏まえたリアリティが不足していた。震災後に書かれたものは緊急性を優先して、ドキュメンタリータッチで、まとまりが悪い本もあった。
3)3.11以降に、以前に発行されたものや絶版になっていたものを増補再刊した本も多い。しかし、この本は巻末に収録された資料は以前のものだが、本文はすべて3.11書き下ろされたものであり、大きなタイムラグを感じない。
4)1986年夏に著者のスクーリングを受けたことがある。チェルノブイリ原発事故の直後であり、K大キャンパスの中での強烈な脱原発の講義には、大いに共感した。その彼は現在、長崎の森の中で農業をしながらパッシブソーラーシステムの家で暮らしている。そんなライフスタイルに、有言実行の力強さを感じる。
5)本書において著者は、必ずしも太陽光発電システムを過大評価はしていない。地熱や風力にも重きを置いていない。むしろ、ガス発電や小水力発電に現実的な可能性を見る。夢想的ではなく、きわめて現実的に「希望」を語る。まだまだ絶望するべきではない。
6)私たちこの太陽系の第三惑星の上で暮らしている、すなわち限定された世界で暮らしているわけで、昔から自然の中で共存共生しながら暮らし、その自然を消費し尽くすのではなく、その状態を維持しながら、あるいは豊かにしながら次の世代に譲渡り渡してきました。
そのおかげで私たちは生きてきているわけですから、この与えられた自然をより豊かなものにして次の世代に残すのが、私たちの責務なのです。それを放射性物質で汚染して譲り渡すというのは人間としてやってはいけないことです。
だから放射能汚染問題というのは、哲学の問題でもあります。それを原子の問題に矮小化してはなりません。p257「おわりに」
7)各論はともかくとして、とにかくこの点をキチンと把握しておかなければならない。
8)原子力の本質的な危険性を理解できる科学者として、原発に抵抗する農民や漁民、市民の側に立つ科学者が一人や二人いてもいいだろうと思い、自分の立身出世のための、そして興味本位の研究を一切放棄し、「市民科学者」への道をとることを決断したのは、スリーマイル島原発事故の直後のことでした。p65「なぜ、福島の悲劇を食い止められなかったのか」
9)(チェルノブイリ事故の)放射性物質の影響が出始めているではと私たちは心配を募らせていましたが、なかなか真相が見えてきません。「行くしかない」現場主義をとる私はそう決断し、現地に入ることにしました。1990年の春のことでした。p80「同上」
10)私は千葉に生まれ、東京と神奈川に居を移しながら、最後は三浦半島の小網代の森の豊かな自然の中に暮らしておりました。(中略)
だんだん定年が近くなりまして、「ここから先の人生、放射能の恐怖におびえて暮らすのは嫌だ。私の耕す畑に放射性物質が降ってくるのはいやだ」そういう想いが非常に強くなりました。生まれてこのかた関東を出たことがなかった私は、浜岡のはるか風上の長崎県の角力灘に面した海辺の小さな村に引っ越す決断をしました。p113「同上」
11)私たちは今まで、この原発の事故が起こったときには大変なことになると訴え続けてきましたが、私たちは社会的には、完全に浮いていました。「あの人たちの言うことは変だよね」とか「国賊」とか「非国民」などと言われたこともあります。p158「放射能は子どもの未来を奪うのか」
12)ちなみに私が長崎に建てた家は、パッシブソーラーシステムというシステムを使っています。これは屋根が集熱板になっていて、屋根の表面に空気の層を作り、その空気の層を直接太陽で加熱することによって、夏場には60~80度くらいの温度の高い空気が作れます。その空気を夏にはお湯を沸かすのに使い、冬にはその温まった空気を室内に送り込んで暖房に使います。p223「原子力にかわるエネルギーは何か」
13)私たちが80年代ごろから主張し続けているのは、「エネルギーは等身大の技術体系で確保すべき」ということなんです。(中略)人間の手でコントロールできる等身大の技術体系をを使えばいいのです。p236「同上」
14)エネルギーの「地産地消」を行えばいいです。言い換えれば大規模にコンピューターシステムを使って国家レベルでエネルギーをコントロールするのはもうやめましょう、ということです。それよりも各地域が自由に楽にエネルギーを活用していけば、なにかトラブルが起きた時でもその地域だけで問題を解決できる小規模なシステムになるのです。p250「同上」
15)この本、割と分厚くて、最初はどぎまぎするが、全文が「ですます」帳のインタビュー形式にまとめられており、重厚な内容ではあるが、一気に読めてしまう。そして著者がいうところの「絶望から希望へ」の意味もよくわかる。実現可能な脱原発の提言のひとつがここにある。
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