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2011/10/15

震災トラウマと復興ストレス<1> 宮地尚子

【送料無料】震災トラウマと復興ストレス
「震災トラウマと復興ストレス」 Vol.3 岩波ブックレット  宮地尚子  2011/08  岩波書店 全集・双書 63p
Vol.3 No.0488

1)震災後7ヵ月が経過して、ようやくこのような文書が読めるようになった。私自身がこういう文書に真正面から向かい合うことができるようになった、ということであり、一般にこのような視点が流布するようになった、ということでもある。

2)著者は精神科医。「地球社会研究」専攻ということだから、社会学に一分野としてこのような研究は続いてきたのかも知れないが、私の目には、ようやくこのような本も見えるようになってきた、ということなのだろう。著者の他の著書も要チェックである。

3)震災直後から、私自身を悩ましてきたもの。それは、「私は被災者なのか」という疑問だった。それは、「私は傍観者なのか」、とか、「私はボランティア」なのか、とか、という問いかけとともに存在しており、この震災全体の中で、私は一体どこに位置しているのか、と自らの立ち位置をさがしてきたと言える。

4)著者は大震災後の人々の心理的傷害の全体的構図を、平坦地におかれた巨大なドーナッツのような形の「環状島」に例えている。まるで、蔵王のお釜のような形だ。

5)もっとも悲惨な「内海」があり、そこから這い上がろうとする「内斜面」があり、ひとつの頂点として「尾根」があり、そこからまた次第に下り坂となった「外斜面」があり、「外海」へとつづく。

6)内海の最も中心は水没してしまっていて、何も見えない。外海もまた水位の変化によって、被災地のことなど忘れていく。内斜面においても、外斜面においても、滑り落ちたり這いあがったりする動きがあり、それは「重力」や「風」、「水位」としてとらえられている。

7)この図式で言えば、まさに私は尾根に立っていると言えるだろう。もっとも悲惨な内海にいて、死亡したり声を失ってしまったわけでもなく、外海の水位のなかに埋没してしまって、無関心になってしまっているわけでもない。

8)しかし、わざわざ外斜面を這い上がって、尾根を越え、さらに内斜面におりて行って、積極的にボランティア活動や被災地救援の活動をしようとしているわけでもない。

9)もっとも、日々、心の動きがあり、内陸に住んでいる私の周囲はより復旧が進んでおり、このまま、昔に戻ってしまおう、という心理が高まる時もあれば、その逆もある。時には、被災地に車を飛ばし、その後の街並みや海岸線の変化を確認しに行く時もある。

10)放射線が飛散した地域が同心円状に広がっているわけではないことは、多くの調査で明らかになった。著者のいうところの環状島もまた、実際にはドーナッツや蔵王のお釜のように、必ずしも同心円状に広がっているわけではないだろう。ただ図式としてはよくわかる。

11)実際に見聞きすることもあり、メディアで報道されることもあるが、被災地における心理状態はさまざまである。とらえきれない位の事象がある。しかし、この環状島モデルは実によくわかりやすく、現状、人間の心の中に何が起きているのか、説明することができる。

12)当ブログにおける、まさに「3.11人の巻」の骨格を提示してくれるような一冊である。一冊といえども、実は、このパンフレットはわずか63ページの小さな本である。決して冗漫でもなく、不足もしていない。

13)この本は、被災地の方々に向けてというよりも、外部から支援やボランティアに携わる人たち、復興構想や政策にかかわる人たち、遠くにいて何もできないけれど、被災地に寄り添って、深くものごとを考えたいと思っている人たちに向けて書いています。もちろん被災地の方々にとっても意味あるものにしたいと思っています。p3「はじめに」

14)私は環状島の尾根に立っている人間である。被災した状況もまさにそのような立ち位置にあったし、今後も、この3.11に対しては、この位置関係を維持していきたい、と思う。風も吹き、引力もある。周囲の水位の変化にも、きわめて敏感に反応する自分がいる。

15)親戚が亡くなり、友人が何人も被災した。7ヵ月経過しても、3.11の当日のまま、一階部分が崩壊した自宅が、いまだに手つかずに残っている友人宅を目にして、言葉を失った。

16)客回りをしていても、突然、悲惨な話を聞いて、いきなり内斜面に引きづりこまれ、あやうく転倒しそうになったりする。あるいは、風が吹いて、外斜面をころがり、すっかり忘れてしまっている時間帯もある。

17)しかし、やっぱり私は、この環状島の尾根に立ち続けるだろう。

18)「日照りの時は涙を流し 寒さの夏はおろおろ歩き」、と宮沢賢治は表現したが、その真意はともかく、今の私は、そのような状態であり、また、それはそれでよいのだ、と思っている。

19)<内斜面>から<内海>に落ちないようサポートする。<外斜面>の支援者を減らさない。傍観者を<外海>から<外斜面>に誘う。<水位>を上げない。一つの大きな島影を残しつつ、新たな島を想像/創造していく。いずれも可能です。

 今、歴史は作られている最中です。復興の過程には私たちみんなが関わることができ、そこでの<重力>や<風>に影響を及ぼすことができるはずです。p55「復興とストレス」

20)シンプルにそぎ落とされた文章の中に、ソリッドな力強いエネルギーを感じる。

21)この本、まるまんま3.11に向けられて書かれている本だが、これまでの他の震災、例えば阪神淡路とか、中越地震などでの研究がもとになってできてきている部分が多いだろう。確かに今回は巨大であり、未曾有の災害ではあるが、人間界におこる図式としては、あり得ることであることを、見事に教えてくれている。

22)今回、私は環状島の尾根に立っていることを意識したが、かつての震災においては、どうだったのだろう。一時的に外斜面にいた時もあっただろうが、殆どはそこからすぐに重力に引かれて外海へと水没して、無関心派へと転向してしまっていたのではなかっただろうか。

23)今後、被災地の中から、どのような文学、詩やアートが生まれてくるのか楽しみです。宗教やスピリチュアルな領域においては、東北は豊かな民俗文化ををもっていました。口承伝承の再評価、祭りや儀礼の復活再生、新たなタイプの祭りや儀礼の創造は、<内海>に沈んだ犠牲者たちの声をよみがえらせ、後世にまで伝えることでしょう。p61「復興とストレス」

24)素直に心から、ありがとう、と言える一冊。感謝。

<2>につづく

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