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2011/10/08

飯沼勇義「知られざる中世の仙台地方」<1>

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「知られざる中世の仙台地方」 <1>
飯沼勇義 1986/11 宝文堂 単行本 300p
Vol.3 No.0484★★★★★

1)3・11その日を忘れない。―歴史上の大津波、未来への道しるべ」(2011)、「仙台平野の歴史津波―巨大津波が仙台平野を襲う!」(1995)の飯沼勇義が、40年来研究してきたいわゆる郷土史の一端をまとめた一冊。1986年に出ている。

2)この方には他の著作もあるのかも知れないが、この三冊が一般に流通しているものと見られる。チェルノブイリの1986年、阪神淡路の1995年、東日本大震災の2011年と、なんとも大災害の年回りに著書を発表しているあたりが、なんとも因果なものである。

3)後年の2書に比べれば、著者の「処女作」ともいうべきこちらの「知られざる中世の仙台地方」は、かならずしも読みやすいものではない。ですます調と、だである調を、むしろ意図的に混在させているように思えたり、資料としての漢文や漢字+カタカナまじりの読み下し文は、通常ならサッサと目を飛ばして、ページをめくりたくなる。

4)しかし、1930年生まれの著者が56歳の時、過去35年を越える期間に渡って調べ上げた資料を列挙駆使しながら書き上げたこの一冊には鬼気迫るものがある。

5)特にこの本の主テーマになっている「中世の仙台地方」については、私自身も以前から関心を持っているのだが、いまひとつ手掛かりがないまま時間だけが過ぎてきた。この一冊において、なにかが大きく解決した、ということではないのだが、なるほど、ここまで、こういう形で研究できるのだ、という納得感はある。

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6)私の20代、30代、40代の前半までの半生は、仙台地方の歴史を詳しく知るということを重点に、仙台地方の歴史資料を徹底的に集めて調査、研究をさせていただきました。

 だが、これまでは、仙台地方の歴史を知ったということだけであった。それもその筈、この間に集めた資料を基にして一つの史実を実証しただけであり、これらの実証した史実を収録しただけでは、価値ある史書の叙述は全く不可能であることを知った時、この半生の間、何かしら人間としての生き方に非常に大きな物足りなさがあることに気づきはじめました。

 もう一度、自分を見つめ、このからだで、今まで出来なかったことを自分の肌でその生きざまを経験出来たら・・・・・この経験の中に、巾広い視野の見える人間、そして、過去が透視できる歴史観をもった人間になりたい、・・・ただ、ひたすら、こんなことに執念を燃やして生きてきたが、到底、この境地に到達することは出来ないまま今日に至ってしまいました。p4「はじめに」

7)至って謙虚な述懐ではあるが、真摯な姿勢で人生を生きてきた方ならば、当然、一度ならず通過すべきふりかえりの心境であろう。このポイントから何年も経て、後年の2書が出て来ることを考える時、著者の中の心境の変化に留意すべきである。

8)現在、私達が住んでいるこの土地に、こうした大津波が押し寄せてきたら私たちは一体どうなるのでしょう。どうすれば助かるの? どこへ逃げればよいのですか? と言われたとき、私は歴史研究家として、熱いものが胸につまって言葉が出ませんでした。

 今までの歴史研究家は歴史を研究すればそれでよかった。しかし、こうした研究を通じて、実際、これからどうすればよいかということに取り組まなければ、本当の意味での研究者の本懐を達成できないと感じました。「仙台平野の歴史津波―巨大津波が仙台平野を襲う!」(1995)p190「津波防災対策試案 もし、仙台平野に巨大津波が押し寄せてきたら、私たちは、どうするか。」

9)中世の仙台地方を研究していた段階ではまだはっきりとしたテーマが見えてこなかった。もっと思索を深めた時、長い歴史の空白期に、著者は周期的に襲来する巨大津波の存在に気づいた。そこからさらに襲来の時期と規模を推定し、近未来に対する警告を発した。

10)私は半世紀以上にわたって仙台湾に押し寄せた歴史的な津波について調査研究をしてきた。数え切れないほどの伝承を調べ、多くの史跡を訪ね、学際的な研究をも進めて歴史叙述を分析、解析を進めるうちに、戦慄すべき事実に気づき、ある確信を抱くようになった。

 三陸海岸と違って津波と無縁であると思われていた仙台平野にも、約200年周期で大津波が押し寄せていること、そしてさらにそれをも超える超巨大津波が約1000年周期で広域の仙台平野全域を襲うだろうという確信である。私はその成果をまとめ、1995年に「仙台平野の歴史津波」と題する本を上梓した。その本はなぜか周囲から「赤本」と呼ばれている。

 2007年には「巨大津波がやってくる」と題して仙台市の若林区役所で講演を行った。宮城県庁、仙台市に対しても津波対策、避難経路の確保、防潮林の強化植林を何度も訴え続けた。東北大学の地震学者たちにも共同で研究するように要望書を提出した。

 だが、それらのほとんどは無視されたまま、2011年3月11日の、あの日を迎えてしまったのである。3・11その日を忘れない。―歴史上の大津波、未来への道しるべ」(2011)p5「はじめに」

11)著者の無念さが伝わってくる部分である。私たちは、ここから何を学ぶのだろうか。

<2>につづく

 

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