宮澤賢治イーハトヴ学事典 天沢退二郎・他(編集),
「宮澤賢治イーハトヴ学事典」
天沢 退二郎 (編集), 金子 務 (編集), 鈴木 貞美 (編集) 2010/11 弘文堂 単行本: 687p
Vol.3 No.0554★★★★★
1)こりゃまたとてつもない本である。ハードカバー全687p、占めて14700円。出版されたのも、まだ一年前と、もっとも最新の賢治ワールドの研究書のひとつ、と言えるだろう。
2)執筆陣もほぼ150名と、とてつもないヴォリュームで、編集期間も、企画や準備期間を含めれば、大変長期に渡ったはずである。それだけに、全部を一読するというのはなかなか難しく、「事典」という通り、気になる項目を引けば、そこから賢治ワールドにつながる仕組みが、すべての項目に渡ってできているということになる。
3)センダード(仙台)
童話「ポラーノの広場」に登場する都市名だが、仙台をもじった造語。作中では、都市名では「センダード」とし、駅は「センゼードの停車場」、地元紙も「センゼード日日新聞」などとしている。
その地への交通路として、作中では、「わたくしは小さな汽船でとなりの県のシオーモの港に着きそこから汽車でセンダードの市に行きました」としている。その「シオーモ」も実在の塩釜をもじった造語で、賢治行動圏内への親しみの反映が見られよう。
(関連項目)イギリス海岸、トキーオ・トケイ(東京)、ハームキヤ(花巻)、ヒームカ(姫神山)、モーリオ・マリオ(盛岡)p286
4)当然、当ブログ現在進行中のカテゴリ名「センダード2012」は、ここに依拠している。
5)賢治の詩を自分の詩集におさめたアメリカの詩人Gary Snyderや賢治の詩集を英訳し、それを出版した佐藤紘明は例外だが、以上に述べて理由などによって、それらも残念ながら、外国の読者の注目をあまり集めなかった。p459「賢治の英訳」ロジャー・パルバース
6)スナイダーの「奥の国」(The Back Country)は、花巻の賢治記念館にスナイダーの写真と共に実物が展示されているが、賢治が外国に広く紹介されているとは言い難い。しかし、生前の国内ではまったく無名であったわけだし、21世紀になってますます高まる賢治の国内人気だけに、今後、どのようなグローバルな広がりをみせていくのかは、今後の楽しみでもある。
7)「奥の国」(The Back Country)は国内の図書館にはほとんどなく、唯一関東圏の大学に一冊あることを図書館スタッフが調べてくれたが、借り出すまではいかなかった。本当に読みたいと思えば、もちろん古書だが、ネットで割と簡単に入手できるようだ。
8)意識/意識現象
宮澤賢治は自分の作品世界を自ら「心象」のあるがままの「スケッチ」と呼んだが、それは、20世紀への転換期に欧米の哲学界が関心を集めた「意識」現象の問題と深く関連している。p22
9)なるほど、賢治の「心象」とは、「意識」現象と関わっていたか。便宜上、「意識をめぐる読書ブログ」を標榜する当ブログとしては、読み捨てできない部分である。
10)エマソン
(前略)明治44年、盛岡中3年の賢治が「『中央公論』の読者で、エマーソンの哲学書を読んでいたのに驚いた」と寄宿舎の同室者は述べている。(後略)p68
11)このことは他でも読んだが、当ブログにおいてはエマソンはまだスタートしきれていない。さまざまな展開があろうが、まず、エマソン→賢治→スナイダー、エマソン→ソロー→スナイダー、あたりの系譜をもうすこし丁寧になぞることができる時期がくるだろうか。
12)学校づくりと、内容については、人間観などが賢治と多いに共鳴し合うルドルフ・シュタイナーに学ぶことが多く、その名もいただき、学校名としたのだった。p77「賢治の学校」鳥山敏子
13)無限といっていいほどのインターフェイスを持っている賢治ワールドだけに、鳥山敏子がシュタイナーと賢治を繋げるという発想は有り得ることだとは思う。当ブログは今のところ、シュタイナーを断片的に取り上げてきたが、まとめて追っかけする予定はない。鳥山は、シュタイナーの「教育」の部分を中心に切り取ったから、このようにリンクすることが可能だったのだろう。
14)賢治が信奉した法華経は、全編いたるところに、すこぶる完成度の高い、ちょうど近代文学の短編小説のような、説話がちりばめられ、古来、人々を魅了してきた。日本文学史では、法華経文学というジャンルが成立しているほど、影響力が強かった。p213「賢治と説話」正木晃
15)正木晃は当ブログでのスターでもあるが、専門のチベット密教と法華文学を直につなぐことには必ずしも適任とは言い難いようだ。賢治を「法華文学」という概念に閉じ込めることも、ちょっと無理だと私は感じているのだが・・・。
16)宮澤賢治はグラデーションをなしている。多面的といってもよい。詩人、童話作家、教師、社会運動家(羅須地人協会の農民芸術運動))、求道者、法華行者、修験者、シャーマンなどなど、賢治のグラデーションを多色図解することも不可能ではない。「賢治の食べ物」p308鎌田東二
17)この事典ではあらゆる方角からの参加を許している。これだけ多面的な賢治であるがゆえに、その可能性の大きいことをもしめているが、また、それらを以下に実像たる賢治へと結像していくかは、賢治そのものが持っていた本質と、それを愛する人々が光のグラデーションの融合のあとに白色化し、無色化していくところに関係してくるだろう。
18)南方熊楠
(前略)イギリスでは「素人学問」が玄人専門の学者を圧していると主張、賢治にもつういる自然愛好者であった。熊楠の合祀反対運動と自然保護運動を支持した柳田国男と大正2年待つ出会うが、民俗誌「郷土研究」の編集で意見が合わず、大正15年に決裂した。p475
19)熊楠もまた当ブログでは読み込み不足だが、今後の如何によっては、賢治+熊楠、というカップリングを意識していかなければならないかもしれない。
20)以上、ざっとめくればこのような点が目についた。これだけ分厚い「事典」だけに、気がつかないことも山ほどあろう。おりに触れて、まためくってみるのがいいだろう。
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