イーハトーブ悪人列伝 宮沢賢治童話のおかしなやつら 大角修
「イーハトーブ悪人列伝」 宮沢賢治童話のおかしなやつら
大角修 2011/2 勉誠出版 単行本: 254p
Vol.3 No.0553★★★★☆
1)賢治ワールド追っかけには切りがない。各人各様、好き勝手に賢治を扱っている。著作権が切れているせいでもあるまいが、かなり自由に賢治を引用し、あるいは切り刻んでいる。賢治自身もまた、そのような活用のされかたに適用しやすくできており、本人自身がそれを意図したかのようでもあり、また、実際に喜んでいるようにも思える。
2)本書は、こんな悪人どものの物語を中心に宮沢賢治の童話をとりあげたものなので、書名を「イーハトーブ悪人列伝」とした。
賢治の作品は、幻想的で美しい景色の中に、どきっとするほど鋭い悪や汚辱の罪が挿入されている。しかし、何が善で何が悪であるかはカオスの縁のように不分明であり、オツペルときたら、やっぱりたいしたもんなのである。p1「はじめに---賢治のマジック」
3)この本は3.11直前に出版されたものなので、決してブームに乗って出版された本ではない。著者は1949年生まれの宗教学宗教史専攻の人。宮沢賢治研究会「賢治研究」編集委員とやらも務めている方である。
4)それだけに、賢治のことは知りつくしており、生半可な評論など書いてやるもんか、という意気込みを感じる。「イーハトーブ悪人列伝」とは、なかなかいい線ついているタイトルではないか。
5)著者にはすでに賢治についての多くの著書があり、この本においては、ほう、そういう作品があり、そういう読み方があるのか、と驚くことが多い。賢治追っかけをはじめたばかりの当ブログにとっては、ちょっと高級な一冊である。もうすこし、賢治の童話に十分親しんだあとに、このような縦横自由な読み方をするほうがいいのだろうか。
6)また、賢治はたんに賢治なのだから、それ以上、深読みしすぎることは禁物なのではないか、とも思う。せっかく賢治が童話という形で、子どもにも大人にも、農民にも、近代・現代人にも親しめるように書いたのだから、あえて、それを小難しくする必要もないのではないか。
7)そもそも、当ブログが賢治を読んでみようという「大決断」(笑)をしたのは、3.11後に、賢治なら、なんというだろう。この被災地からどのように立ちあがるだろう、という好奇心(?)があったからだ。しかるに、この本は、一般社会とのインターフェイスをほとんど持っていない。ひたすら賢治ワールドに浸っている。
8)著者による他書を並べてみなければよくわからないが、それでも3.11直前にでた賢治本としてはかなり目につく位置にある。こういう本もあるのだ、ということをキチンと記憶しておきたい。
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