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2011/12/27

3・11後に心のフタが壊れてしまった人たち 堀之内高久


「3・11後に心のフタが壊れてしまった人たち」 「疑似被災」という病
2011/09 産經新聞出版/日本工業新聞社 単行本 197p
Vol.3 No.0573★★★☆☆

 出口ナオののお筆先だったかに、地獄の釜の蓋が開くぞよ、というフレーズがあって、なんとも恐ろしげな風景が浮かんだものだが、割とそれほど怖い意味でないらしい。

 地獄の釜の蓋が開くの意味 
 正月の十六日の盆の十六日は、だれかれなしに仕事を休もうという意味で、この日には地獄の鬼も亡者の呵責を休み、罪人を煮る釜の蓋も開けっ放しになることから。かつてはこの日を「藪入り」といい、商家では商売を休み、使用人にも暇を与えた。
「ことわざ辞典」

 どすんと、地獄行きの底の板が抜けてしまうのかと思いきや、みんなでお休みを取りましょう、という意味になるようだ。さて、「心のフタが壊れてしまう」ということはどういうことを言うのだろう。

 普段は心の奥底に押さえ込んでおくことができた「怒り」や「悲しみ」といった強い感情が、一気に放出されてしまいます。このことを私は、本書の冒頭で説明しましたが、「心のフタが開く」、あるいは「心のフタが壊れる」と表現しています。

 心のフタの開き具合は、人によってさまざまです。ほんのちょっとだけ開いてすぐ閉じてしまう人もいれば、フタが壊れるほど開き、そのまま開きっぱなしになってしまう人もいます。p56「日本中がバーチャルな被災者で溢れている」

 私は被災地におり、現実に被災状況を把握しながら生きて行かなければならないので、疑似被災者とは言えないが、心のフタまではまだ壊れていないと見える。

 ただ、3.11直後の自分の在り方を考えたら、確かに心のフタが開きっぱなしになってしまっていたかなぁ、とは思う。何にもやる気が出ないし、他との連携もあったから、なかなかうまく自分を取り戻せなくなっていたことは確かなようだ。

 その後、ちょうど、なでしこジャパンのワールドカップ優勝あたりから、すこしづつ心のコントロールはできるようになったような感じもするが、気力も体力も、共に、なにかに奪われてしまったような期間を過ごしていたことはまちがない。

 しかし、か言って、あれだけの災害があったわけだし、何も感じない人などいないわけだから、心のフタが開いたり、多少は壊れたりする方が、正常な人間の感覚というものではなかろうか。血も涙もある生身の人間である。それこそ、地獄の釜の蓋を開いて、みんなでお休みしてみるのもいいのではないか。

 この本の著者は臨床心理士にして、メンタリング研究所スーパーアドバイザー、という肩書である。なかにもちょろちょろと、有効な手段がいろいろ書いてある。それらのひとつひとつは、他の誰もが思いつかない、という内容ではない。むしろ、誰でもが思いつきそうなことばかりだ、と言っても過言ではない。

 かと言って、実際にやってみれば効果がわるわけだし、やらないよりやったほうがずっといい。分かっていそうなことを、このような本をたよりに、実際にやってみることによって、心が心としての機能を取り戻してきそうな気になる。

 ただ、宮地尚子「震災トラウマと復興ストレス」にもあったように、本当に深刻なトラウマやストレスは、すでに失われてしまったり、表現されえない領域にあるのであり、自分の心といえど、そう簡単にフタを修理できないことはよくあることである。

 そういう場合はどうすればいいかというと、しばらくは、このままでいよう、と思うことも必要なのではないかと思う。急いでなんとかしようとせずに、時節を待つことも必要であろう。

 

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