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2012/01/11

宮沢賢治祈りのことば 石寒太<1>悲しみから這い上がる希望の力


「宮沢賢治祈りのことば」 悲しみから這い上がる希望の力<1>
石寒太 2011/12 実業之日本社 単行本 223p
Vol.3 No.0581

 今日は、あの3.11からちょうど10ヵ月目にあたる日である。このタイミングにおいて、3.11と宮沢賢治をダイレクトにつないでしまえば、こうなるだろう、という「お手本」のような一冊である。

 特に、賢治の「行ッテ」精神から言えば、この本は、被災地に足をのばし、仮設住宅に暮らす人々や子供達も、そこでも読めるように、ひとつひとつの気配りがされている。あるいは、東京電力原発事故から逃れて異郷に暮らす人々のもとへも、静かに共感の言葉を持って訪れる。

 3.11後の今、賢治が生きていたら、私たちにどんなメッセージを送ってくれるだろう。そんな問いかけが、あちこちで聞かれる。そして、おのずとその問いかけが「3.11」と「賢治」という具象に集約されていくとするなら、ほとんどこの本で「決まり」だろう、と思える。

 しかし、すなおにこの本にレインボー評価を下すことに躊躇する私がいる。この世に、この森羅万象のこの銀河系宇宙の中に、「3.11」と「賢治」しかない、なんてことはないのだ。全てのまがまがしいことを「3.11」の中に集約させ、あらゆる「解決」策を「賢治」の中にしか見つけてならない、なんてことはない。

 何といっても賢治のことばは、いのちの尊さを伝えています。東日本大震災でも、被災者はもちろん、日本中を慰め励ましているのが、賢治の詩や童話の一節なのです。p006

 3.11直後、私の場合は、なぜか、何度もなんどもなんども私の口元でリフレーンしていたのは、岡林信康の「君に捧げるLOVESONG」だった。 

 あるいは、一連の徳永英明の唄だったりした。

 読みだした本も、ゲーリー・スナイダーだったり、山尾三省だったりした。圧倒的な事実としての3.11の前において、一人の地球人として、あがなうことなど、何もできないのだが、それでもひとりひとりの生活があり、表現や結果がある。

 一呼吸おいてみれば、3.11には賢治がぴったりだった。あまりにハマりすぎている。もし、これから1000年、2000年経過して、もしも宮沢賢治が語られるとしたら、明治三陸大津波や、昭和三陸大津波ではなく、3.11とともに語られることが多くなるだろう。

 1000年、2000年後に、3.11が語られるとすれば、ひとびとは、宮沢賢治とともに立ち直った、などと表記されるかもしれない。それはそれでぴったりだと思うし、そうなるようになっていたのかもしれない。

 しかし、「3.11」が具象的であればあるほど、そこからなにか、きわめて普遍的ななにか、を見い出さんとする衝動がある。あるいは、「賢治」が、ちょうどいい具合に、一口サイズに提出されていればいるほど、そこからなにか、普遍的な無名性を見い出したい、という衝動が渦巻く。

 当ブログは当ブログなりに、賢治の「農民芸術概論綱要」を、独自の「地球人スピリット宣言」として読み直してみようという作業中である。そこには、当然のごとく3.11や賢治ワールドの諸要素を多く含むことは間違いないのだが、それは、もっと透明なものとしてとらえなおされなければならない。

 この本はよい本である。この本は、被災地まで「行ッテ」人々をなぐさめる。被災者のこころまで「行ッテ」、傷づいた魂を癒す。しかし、それは、3.11と賢治をセットで考えれば、の話である。

 今日、原発事故を含めた3.11という事実の前に立たされている私たちであるが、そして、その解決策の重要な一つとして賢治を再発見した「私たち」であるが、その3.11や賢治もまた、大きな銀河の中の小さな砂粒でしかないことに思いを馳せる時、私たちの思念から、3.11や賢治、という単語もまた、自然に消えていくことだろう。

 そんなことを思いつつも、2012年、今年最初のレインボー評価に、この本を選んでおくことは、極めて重要だと思う。

 著者、石寒太の名前は、「宮沢賢治幻想紀行 新装改訂版」にも見える。

<2>につづく 

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34)地球人スピリット宣言草稿」カテゴリの記事

コメント

岡林信康。「君に捧げるラブソング」も大好きだよ。震災後、何度も何度も繰り返し聞いた。

投稿: Bhavesh | 2018/07/05 08:36

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