宮沢賢治祈りのことば 石寒太 <3> 悲しみから這い上がる希望の力
「宮沢賢治祈りのことば」 悲しみから這い上がる希望の力<3>
石寒太 2011/12 実業之日本社 単行本 223p
★★★★★
図書館に返却する前に、もう一度目を通してみる。
この詩には、高みから科学によって、また芸術によって、現実に悲惨な農民を自分の力でなんとか救いたい、などという気負いはまったくありません。現実には全く「オロオロアル」いたり、涙を流したりと、たとえ無力であっても、農民たちの苦しみや悲しみをともに分かち合う同伴者になりたいという、賢治の切々たる思いが「デクノボー」の精神のひとつになっているのです。p021「雨にもマケズ」
本当にこの本は、3.11と賢治をダイレクトに繋ぐなら、この本以上はない、というほど、実にシンプルに、簡易にその意味を教えてくれる。
新たなる詩人よ
嵐から雲から光から
新たなる透明なエネルギーを得て
人と地球のとるべき形を暗示せよ p055「生徒諸君に寄せる」
まさに、人と地球のとるべき道こそ、当ブログの探究であり、今こそ問われている人類共通の命題である。
賢治のことばは、いまや賢治の生地岩手県の花巻の人々はもちろん、今度の震災に遭遇し多くの死者を出した陸前高田、東松島市、双葉町をはじめ、大槌町、京都、釜石、山田、久慈の人々、また津波から火災にまで被害の広がった気仙沼市、南三陸町、名取市の人々、もっとも悲惨なのは、地震、津波、から予想だにしなかった原発被害に苦しんでいる、福島圏内の人々でしょう。
それらの大震災にあった被災の人々のはげましとなり、さらに世界中の人々への生きる希望を与えてくれているのです。まさに、ふるさと賛歌なのです。p104「ふるさと賛歌『きれいにすきとほった風をたべ』」
あまりに甚大で、全体を見ることさえ不可能な今回の3.11。その地から立ち上がる賢治の姿、というのは図式としては、とても美しい。しかし、物事をシンプルにする方向と、物事を矮小化する方向は、時に混同してしまうこともあり得る。
賢治は詩人であり童話作家であることは、いまさらいうまでもありません。また、科学者にして宗教家でもあります。
たった37年という短い生涯の中で、創作と献身に生きた賢治は、豊かな自然を愛し、自然と交感し、特に貧しき農家に生きる喜びを喚起し、希望の光を与えてくれました。p130「希望といのち『そは新たなる人への力』」
ものごとすべてが3.11で、その解決策が、唯一、賢治のみ、という構図なら、この賢治賛歌でも悪くはないだろう。しかし、それでは、なにかが、大きく見おとされてしまう。
新たな時代は世界が
一の意識になり生物となる方向にある
正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識して
これに応じて行くことである
われらは世界のまことの幸福を索(たず)ねよう
求道すでに道である p163「農民芸術概論綱要 序論」 「隣人の幸せを願う『世界がぜんたい幸福にならないうちは』」
詩に感動し、詩人に共鳴しているだけでは、自らの人生を生きている、ということにはならない。
私は、賢治のいう「イーハトーヴ」は、彼のふるさと岩手を中心とした、さらにもっと途方もなく巨大な夢のようなものだ、と考えをさらに大きく変えざるを得なくなったのです。そして、その果てには、地球はおろか、銀河鉄道に乗ってはるばると行く、宇宙の彼方までおよんでいるのです。
田んぼのことをあえて沼畑と呼び変え、稲をオリザと呼ぶセンスも、ひとつの賢治の鍵になっています。賢治が、岩手を核とする壮大なパラダイス、イーハトーヴの拡大をこころのうちに抱いていたことが、読みすすむごとに明らかになります。p188同上
賢治の声を聞き、その生きた存在を、今、感じるということは、ここにいま、自分の3.11後を生きる、ということに繋がっていくことになるはずである。
平成23(2011)年3月11日に、東日本を襲った大震災は、未曾有の被害をわれわれにもたらしました。
それにともなう津波・火災もそうですが、何よりも想定外だったのは、原子力発電所の放射能漏れによる汚染の事故でしょう。
この問題はいまだに尾を引き、解決のめどさえ立っていません。日本人が今後、幸せな暮らしに戻るためには、いったい何をすべきでしょうか? 東北の太平洋側の人々は、まったく零、いやマイナスからの、第一歩を踏まざるを得ないのです。いままでの日常生活に戻るには、何年の歳月がかかるでしょうか。こころの傷はいつになったら癒えるのでしょうか。
皆戸惑いの色をかくしきれませんが、これは科学優先の人間本位ですすめてきた政策への、自然現象のシビアなしっぺ返しだったのかもしれません。苛酷ではありますが、このあたりでもう一度むかしの暮らしに戻ることを考えてもいいかもしれません。
節電を余議なくされたときもありました。「日本の夏はこんなにも暑かったんだ」と、自然と共生する暮らしを、もう一度真剣に考えてみたいと思います。p213「あとがき」
この本は、小学校の図書館に入ってもふさわしい一冊であろう。場合によっては、幼稚園児に読み聞かせても、分かってくれるだろう。しかし、中学生以上なら、ものごとはそう単純ではないことに気づいている生徒も少なくないはずだ。
ものごとをシンプル化することはいいことだ。難解で、複雑なことだけが高級である、なんてことはない。この本は、3.11後に、一冊だけ、被災地に持っていくとしたら、もっともふさわしい本の一つになるだろう。だが、それだけでは解決にはならない。
ただ、この本を読み、そこから、その「悲しみから這い上がる希望の力」のとっかかりを見つけることができれば、この本は十分に生きて働いてくれた、ということになるだろう。
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