フクシマは世界を変えたか ヨーロッパの脱原発事情 片野優 <1>
「フクシマは世界を変えたか」ヨーロッパの脱原発事情 <1>
片野優 2012/04 河出書房新社 単行本 295p
Vol.3 No.0676★★★★★
フクシマとカタカナで書かれることには敏感になってしまっている当ブログだが、この本は、決してジャーナリステッィクな目新しさや、揶揄した姿勢でその単語を使っているわけではない。
内容は大きく三つに分かれる。ひとつは、スリーマイル島や、チェルノブイリに限らず、ヨーロッパを初めとする世界の原発では、昔から事故は続いていて、隠蔽されてきたものも多くある、ということ。これらの事情をよくこまかく捉えているものだと思うだが、巻末の膨大な資料に裏付けされているのだろうし、著者自身が永くヨーロッパに住んで、実際にその地を訪れ、インタビューもしているという根拠がある。
二つ目には、今回の3・11における東電原発事故を受けて、実際にヨーロッパでは、特に各国の政府レベルではどのような反応があったか、ということを、国名を上げて列挙する。そしてその国民の反応についても詳しい。
私は、この3・11にあたって、原発よりも、まずは津波事故のほうが目にいったために、原発についてこまかく考えることは、すぐにはできなかった。専門家たちにまかせておけばいいだろうと思っていた。ましてや、ヨーロッパ事情までは、目を配る余裕がなかった。
しかし、一年が経過して、このような形でレポートを読んでみると、日本が置かれている位置、そしてその中で、さらに自分が置かれている立場がすこしづつ透けて見えてくる。なにをどうすべきなのか、逆照射される形になる。
三つめは、この本の良心的なところであるが、原発事故、あるいは3・11に限らず、脱原発エネルギーについてのヨーロッパ事情を伝えていることにある。反・脱原発派においても、では打開策はどうするか、というと意見が分かれることが多い。
原発を即時停止しても問題ない。あるいは火力やガスからも脱却すべきだ。代替エネルギーは役に立たない。新しい原発が必要だ。さまざまな意見が錯綜していて、まとまりが悪い。実際、日本に住む一地球人として、はてさて、何が新しい選択肢なのか、と悩むことになる。
それに対して、この本においては、各国の成功しているヨーロッパの脱原発エネルギーについて、詳しく誠実にレポートしている。日本は遅れている。やられたね、と思う。しかし、よくよく考えてみれば、まだまだそう差は大きくない。ほんの数年、数十年の差である。 今回の3・11を契機に、真摯に前向きに考えれば、超えていけることは間違いない。
この本、メモしておきたいところが沢山あるが、メモを残すより、後ほど、さらにキチンと再読したほうがいいだろう。引用は最後の最後の結句の数行だけにしておく。
今回の原発事故は、エネルギー問題を政治や過去の歴史から切り離して、地球レベルで問い直す必要があることを示唆している。また本来エネルギーは、人間の生活を豊かにし、人間を幸福にするための手段である。にもかかわらず、人類は取り返しのつかない過ちを何度も繰り返してしまった。京大原子炉実験所の小出裕章氏の「たかが電気のために」という言葉は、それを端的に表わしている。p288「ヨーロッパで注目の脱原発エネルギー」
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