3・11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ たくきよしみつ
「3・11後を生きるきみたちへ」福島からのメッセージ
たくきよしみつ 2012/04 岩波書店 岩波ジュニア 新書 226p
Vol.3 No.0724 ★★★★★
内容的には、前著「裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす」(2011/10 講談社)とほぼ同等だが、半年後に出た本であり、情報もあらたに整理されており、また岩波ジュニア新書ということで、やや低年齢層にもわかりやすい科学読本のスタイルを導入してある。
著者は、なにやら若くして文学賞を受賞した人で、その後は、都会と田舎に二重の生活基盤を持ちながら、パソコン関係の本を書いている人、という認識だったが、どうやら、もともとはミュージッシャンらしい。
みずからの音楽的な成果も自負しているようなので、時と場所を得たら、ひょっとすると、同年輩の、宮下富実夫や喜多郎のような存在になったのかもしれないと、想像してみる。著者名で地元図書館のリストを検索してみると、著書は何冊もでてくるのだが、視聴覚資料は、残念ながら一点もみつからなかった。
この本は、過大評価したい部分と、過小評価しなければならない部分が混在しており、結局は、ありきたりの評価になってしまった。
お気に召さないのは、結局、この人は一体、何のために本を書いたり表現しているのだろう、というところ。いや、それは分かっているのだが、表現者としては、その詰めが甘いのではないか。あるいは、ここまで来ているのなら、もっと先まで行かなくてはならないだろう、というところが、どうも不満を感じさせる。
つまり、スピリチュアリティへの言及がない。あるいは、瞑想の理解を開示していない。著者には、他の表現物が多数あるので、それらにも目を通してみる必要があるが、すくなくとも、彼の数冊を読んだ限りにおいては、決定的なパーツが不足している。
逆に言えば、当ブログでも理想化してきたアルビン・トフラーの「第三の波」の、森の中のエレクトロニック・コテッジを地で行ったようなライフスタイルは見事だったと思うし、うらやましいと思う。現実にそのような生き方ができたのだという、実践の人でもある。
しかし、ここからだ。「3・11後を生きる」のは、「きみたち」ではなくて、私たち、わたし、なのだ。たくきよしみつにとって、「3・11後を生きる」のは、フクシマとか原発とかにかかわり続けること「だけ」に終始することではないだろう。
これをきっかけに、ここを契機に、さらに極めていかなくてはならないことがあるはずだ。それは、他者に転化できるものではない。科学に精通し、芸術の才に恵まれた著者には、さらに「意識」への高見へと上昇し得る可能性がある。
この本の問題提起はほとんど納得できる。著者の生き方も素晴らしい、うらやましいと思う。だが、ここまできたら、さらにもう一歩先にいかなくてはならない。科学や芸術とトリニティを維持できるほどのクリアな意識だ。当ブログ流にいえば、瞑想が必要なのだ。
むしろ、パソコン周辺や原発周辺の科学的な知識や情報は、彼にとっては専門的な分野ではないはずだ。文学や音楽のほうがもっと彼らしい分野だろう。遅ればせながら、彼はどんな音楽をつくっているのだろう、と興味しんしんとなってきた。
そして、彼こそが期待され、彼こそが招待されているのは「意識」の世界だ。この世界を探求し、到達し、あるいは、それを表現し、普遍化する、という作業に、彼ほど似つかわしい人はいない。「3・11後を生き」ようとする、たくきよしみつに、私は、そう感じるのである。
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コメント
あがさクリスマスさん
書込みありがとうございます。
ご紹介のあった「荒野の月」機会をとらえて拝読いたします。
投稿: Bhavesh | 2012/07/24 13:35