VANから遠く離れて 評伝石津謙介 佐山一郎
「VANから遠く離れて」 評伝石津謙介
佐山一郎 2012/03 岩波書店 単行本 330p
Vol.3 No.0739★★★★☆
VANといっても、IT関連データ通信サービスのバリュー・アディド・ネットワークのことではない。かつて一世を風靡したアイビーファッションのブランド「VAN」のことである。
一般にはVANについてどれだけ記憶に残っているのだろう。私も中学生の頃にちょっとだけ意識したことがあったが、それはたしかにちょっとだけカッコよかったが、私のライフスタイルにはならなかった。
著者は私と同学年の東京生まれである。たぶんマセたガキだったのだろう。稲の切り株の残る田んぼで草野球をやっていたようなこちらとは違って、あそこのデパート、あそこのショップと渡り歩いてVANを着ていたのだろうか。
石津謙介はそのVANブランドを立ち上げた男である。1911年、岡山県生まれ、2005年、94歳でなくなった。相当な男子である。その男の一大絵巻として書かれているが、読みようによってはこの100年の時代の動きがわかるようになっている。
私はこの人物についてはまったく知らないが、いつか「間違いだらけの車選び」で徳大寺有恒が、VANが倒産したあとの石津謙介「さん」が、ホンダのステップバンにセンスよく乗っていたのが、とてもかっこよかった、と書いていたのを読んだくらいだった。
「さん」づけで呼んでいたことに、あの一言居士が、この人物を敬愛していたことを知ったが、VANもまた倒産したのだ、ということをもこれで知った。この本で、さらに細かいことを知ることになったが、まぁ、それにしてもだいぶ昔のことである。
ある意味、この石津謙介という存在は、白洲次郎のかっこよさに通じるところがあるのではないだろうか、と思った。年代は10年ほどちがうが、何をやってもかっこよく見えてしまうオーラを放つ存在であったのかもしれない。
そのVANが倒産したのは、基本的には米国流アイビールックが将来性を失い、60年代カルチャーの大波に飲まれてしまったのが遠因だが、こちとらは、その60年代以降のカルチャーに大乗りしたので、VANなど振り返ることすらなかった。
もちろんVANジャケットなど着る気もなかったし、見ても少し嫉妬の気持ちをこめながらも、ダサいなぁ、と思っていたので、誰かからもらったVANのロゴのついたマフラーを一時所有していただけだった。
さらにふと思う。当時、アメリカから日本にやってきていたゲーリー・スナイダーなどは、このVAN思想の真逆の流れにあったのではないか。アメリカに生まれて東洋思想に目をむけ、京都に住んで禅を学んだスナイダーに対し、日本の伝統文化の中に生まれながら、西洋ファッションに目覚めてアイビースタイルを提唱した石津謙介。
東洋と西洋の文化が相互交流する第二次世界大戦後にあって、互いに交じり合う流れのひとつひとつに彼らはいたのではないか。そう思うと、今回、ここで、この評伝が登場してきた意味もすこしづつ理解できるようになった。
VANというブランドは、後期には単に商標として売られていたようなので、そこに思想性は失われてしまったし、現在、そのブランドがどうなっているのか関心もないのだが、たしかにそこから「遠くはなれて」俯瞰した場合、自分たちが生きてきた時代というものが見えてくる。
その思想に共鳴しようがしまいが、この100年という時代を推し量るときに、石津謙介はひとつの基線となってくれそうな気がする。
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コメント
よしさん、こんにちは
石津謙介とVANについては他にも、最近になってからでも、いろいろな評伝がでているようですね。
投稿: Bhavesh | 2012/06/23 05:54
VANにはなったことがあります。
懐かしい…
投稿: よし@ライフスタイル | 2012/06/22 22:49