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2012/07/17

地球の論点 現実的な環境主義者のマニフェスト<1> スチュアート・ブランド


「地球の論点」現実的な環境主義者のマニフェスト<1>
スチュアート・ブランド 仙名紀 2011/06 英治出版 単行本 439p
Vol.3 No.0771★★★★☆

 問題作である。この書を知ったのは池田純一「ウェブ×ソーシャル×アメリカ <全球時代>の構想力」(2011/03 講談社)において。

 なにはともあれ目次を開き、9章あるうちの、まずは第4章「新しい原子力」p111を読んで見た。頭を抱えるような、悩ましい論点である。

 この本の元本は2009年に書かれている。あの地点と3・11を経験したあとでは、おのずと記述そのものが大きく変わってしかるべきである。著者の次回作なり今後の展開なりを検索するとして、邦訳がでたのは2011/06なのに、翻訳者の仙名紀は、そのあとがきにも一切3・11に触れていない。かなりの豪腕だ。

 有力な環境保護論者のなかでこれから増えていくだろうと私が予測しているタイプは、仕方がないから我慢する、という「消極的忍耐派」だ。彼らが核エネルギーへの支持を表明する際には、複雑な言辞を弄してわざとわかりにくい表現にし、発言が引用されないよう気配りをしている。

 アル・ゴアも、その一人だ。彼は公言を避けているが、議会の公聴会では、「核エネルギーには反対しないし、いくぶん拡大していくことを期待している」と認めた。

 私のかつての師ポール・エーリックは、気候変動のおかげでますます核支持派になったと言っている。「自然の終焉」を書いたビル・マッキベンは、環境保護の雑誌「オンアース」で、「世界を救う電力」についての好意的な書評を、次のように記している。

 「環境運動家たちも、時代や状況が変化していることを理解すべきだ。それにしたがって、優先順位も考え直さなければならない。グリーン派は、核エネルギーには危険性が伴うので、それなりの結果を覚悟しなければならないと繰り返しているが、それだけでは不十分だ」

 マッキベンはIPCCの次のような見通しに賛同している。
「原子力発電は世界の発電量の16%を占めているが、18%に引き上げることが望ましい」
p130「新しい原子力 支持派の見解」

 アル・ゴアの「不都合な真実」(2007/1 ランダムハウス講談社)にしても、「私たちの選択 温暖化を解決するための18章」(2009/12 ランダムハウスジャパン)にしても、当ブログはとてつもないきな臭いものを感じてきた。彼こそは、核推進派の宣伝隊ではないか。

 ビル・マッキベンにしても、「自然の終焉」―環境破壊の現在と近未来(1990/01 河出書房新社)から「ディープエコノミー」  生命を育む経済へ(2008/4 英治出版)まで4冊の本に目を通してみたが、どうもイマイチ納得がいかない。

 そもそも、彼らを取り上げているこのスチュアート・ブランドとは一体どんな男なのか。

 ティム・フラナリーは、次のように論じている。
「もしもう一回、大きな事故が起きたら、世界の核産業は決定的な打撃を受けることになる。事故のリスクを最小限にとどめるため、さまざまな工夫がこらされている。したがって、核に関する新しいテクノロジーはかなり安全性が高い」

 ビル・マッキベンは、やや違った角度から見ている。
「原発は万一うまく作動しなくなっても、潜在的にはそれほどの脅威ではない。石炭を燃やす発電装置でも破壊の危険性はあるし、普通に操業していても地球の温暖化に加担する炭素を大気中に放出しているのだから」
p134「新しい原子力 四つの問題、四つの論理」

 3・11以前なら、ここいらあたりはそれほど引っかからずに読み進めていたかもしれない。しかし、3・11以後なら、ここをスムーズに通り過ぎることができる人はいないだろう。すくなくとも「もう一回、大きな事故が起き」てしまったのだから。

 日本の原発はアメリカ、フランスに次いで多く、55基が運転中で、2017年までに新たに11基が計画されている。いま原発の電力が3割を占めるが、政府は2050年までに6割に倍増させようと目論んでいる。p146「新しい原子力 どうにも止まらない復讐心」

 書かれているのは2009年以前の段階のことである。だが、出版にあたった出版社や訳者は、この辺の記述をどのように受け止めているのだろう。

 第四世代の原子炉の実現へ向けてのタイムテーブルは早めることができる、とNASAのジェームズ・ハンセンは言う。廃棄物貯留のためにすでに拠出された280億ドルの資金を一部充当すれば可能だとして、彼はこう述べている。
「この基金は、核廃棄物を消費する高速増殖炉の研究に費やされるべきだし、長期にわたって放射能を放出する廃棄物を作り出すことを防ぐトリウム原子炉の研究にも当てるべきだ」
p163「新しい原子力 『第四世代』の登場」

 3・11後において、原発関連放射線関連の読書を進めていた段階なら、とてもじゃないが、こんな記述に目を通す気にはまったくなれなかっただろう。3・11後になっても、ビル・ゲイツなどは、この新型の小型原子炉に投資すると言っていた。

 日本の東芝は、10ギガワットから50ギガワットの「核電池」ともいうべき小型高速炉を開発した。4Sという名称だが、これはスーパー、セーフ、スモール、シンプルの頭文字のSを並べたものだ。これは2015年ごろをめどに実用化を目指している。p164「新しい原子 力スーパー、セーフ、スモール、シンプル」

 そもそもこの情報が正しいのかどうか確認していないが、もしそうだとしても、2015年に東芝が実用化をはかる新型は3Sという表記になるに違いない。少なくともセーフのSはつけることができないだろう。つけるとしたら、それは何を根拠にそういえるのだろう。

<2>につづく

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