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2012/07/09

インサイド・アップル アダム・ラシンスキー


「インサイド・アップル」
アダム・ラシンスキー 依田卓巳 2012/03 早川書房 単行本 272p
Vol.3 No.0764

 日本人の執筆陣によるジョブズ伝やアップル・レポートは、比較的、勝者礼賛で一方的なジョブズ善人主義に偏っている。それは、外側に報道された歴史や日の当たる面を中心に書かれていることによる。

 アップルという企業は、特に、1997年にジョブズがアップルに返り咲いて以来は秘密主義を強め、その内部のことがレポートされることがほとんどなかった。内部にいる人間であっても、その全体を知ることがなく、その秘密主義こそが、アップル商品の爆発的な人気を得ていた要因のひとつにも挙げられている。

 企業秘密は、どの企業でもあり、むしろ当たり前のことなのではあるが、アップルにおいてはそれが極端に徹底していて、それがジョブズの性癖によるところでもあり、また、彼が失敗から学んだ経営哲学であったのかもしれない。また、かなり特異な社風ができあがってしまったのは、ジョブズがCEOとして21世紀になってから成功し続けてきていたからだともいえる。

 それに対して、この「フォーチュン」誌記者である著者は、より内部の事情をレポートしている。他の軟弱なカリスマ礼賛の本にはない、鋭い視線が、アップル内部に、そしてジョブズに向けられる。

 それは何も批判の材料をこしらえているわけではなく、一般的な経営理念からややもするとはずれ勝ちなジョブズ=アップルの経営が、本当はどうであったのか、実は彼のほうが正しかったのか、単に運が見方しただけなのか、あるいは他の企業も学ぶべきなのか、さらには、ジョブズなきあとのアップルの今後を占うよすがともなりうるからである。

 たしかに偉大だが「とんでもなくすばらしい」わけではないアップルは、これから輝きを失うかもしれない。だが、がっかりするのはアップルにいつも過大なものを要求する信者だけだ。それ以外の人は、これまでもアップルにそれほど期待していなかった。長い目で見れば、私たちはたんにすばらしい製品を買い続けるだけである。p264「最後にもうひとつ」

 ジョブズ追っかけもだいぶ進んでいる。毒食わば皿までと、まだまだあるジョブズ本をもうすこし読み進めてみようと思う。だが、右往左往しながらも、結局はいままでジョブズやアップルに持っていたイメージは、基本的には間違ったものではなかった。

 社員のひとりひとりが、アップル内部において十分に働きやすい職場だと思っていただろうか。民主的経営をせよとまでは言わないまでも、ともすると、一般的な経営理念や労働環境から外れた道を歩んでいたかもしれないアップルとジョブズは、今後、新たに再検証されるだろう。

 そして、その中でもやはり、iPadをはじめとする一連の製品群と、アップルというとてつもない「世界一」の会社と、世紀の「天才」スティーブ・ジョブズという人間の築いたトリニティは、おおいに話題として取り上げられることは間違いない。

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