私たちの選択 アル・ゴア 温暖化を解決するための18章<2>
「私たちの選択」 温暖化を解決するための18章
アル・ゴア/枝広淳子 2009/12 ランダムハウスジャパン 単行本 414p
★★☆☆☆
1)ZEN→ジョブズのZEN→パソコン文化→カウンターカルチャー→スチュアート・ブランド→原発推進へ転向→アル・ゴア・・・・、という、なんとも回りくどいプロセスのなかでこの本に舞い戻ってきた。
2)ちょうど3年前に読んだ時も、評価は高くなかったが、今回も、いくらめくってもなかなか納得することのできない、変な本だなぁ~、というイメージばかりがやたらと目につく。さらに先立つこと2年前、「不都合な真実」の時でも、なんか変だなぁ~というイメージがつきまとった。
3)この、何か変だなぁ~という感覚は、小出裕章氏の一連の著書を読んでいると、たちまち氷解する。つまり、アル・ゴアの著書は、守備範囲があまりにも広く、カラー写真満載でその豪華さが、あまりにも違和感を抱かせるのに対し、小出本は、ターゲットを原発に絞り込んであり、実に分かりやすいのである。
4)最も期待できそうなのは、1960年大からドイツで設計されてきたものをベースにした「ベブルヘッド型」の原子炉だと考えている専門家がいる。
燃料棒を使わず、炉心に酸化ウランの「ベブル」(石のようなもの)のようなものを36万個いれておいて、使用済み燃料として基底部から取り出しては、毎日3000個のベブルを新しく投入するといものだ。
燃料となるベブルには、一個あたり何千もの二酸化ウランの「粒」が含まれており、この粒一つひとぐが炭化珪素や熱分解層で被われている。ベブルは、だいたいビリヤードのボールぐらいの大きさで、最高反応温度よりはるかに高温の2800度まて耐えられる黒鉛製の容器に封印されている。p160「次世代の原子力発電」
5)ビル・ゲイツは、3・11後のダボス会議で「高性能の次世代型の原発」に投資すると発言している。彼の言っている「次世代原発」とは、このようなものを言っているのだろうか。
6)数多くの研究・開発チームが、新たなる設計を作り出すことで、現世代の原子炉が抱える、力を萎えさせるようなこの問題を解決しようと懸命に取り組んでいる。
彼らは、次世代の原子炉は、建設費が安く、より安全に低コストで運転でき、小さめの規模でも経済的なものにしたいと願っている。こういった原子炉だったら、今後の電力需要に不安を抱える電力会社にとって、より魅力的なものになるだろう。
いわゆる「第4世代」の原子力発電所に向けた新しい原子炉の設計は、冷却材に液化ナトリウムを用いる「ナトリウム高速炉」(または「統合高速炉」)など、100を超える。
南アフリカ共和国製の設計のバリエーションの1つで、現在アイダホ国立研究所で調査が進められているのは「超高温原子炉」である。p161「原子力という選択肢」
7)次世代とか、高性能とかの形容詞が躍る説明だが、根本的な放射線の問題は、基本的にはなにも解決されていない。ゴア(というかこの本)もまた、決して手放しの原発礼賛をしているわけではないが、いくつかの可能性を見ているという意味では、「原発のない世界へ」とか、「原発ゼロ世界へ」、といった小出裕章的世界観とは、まったくかけ離れたものとなる。
8)この本やスチュアート・ブランドの「地球の論点」などもそうだが、たくさんの問題点を並べて、一気に快刀乱麻で解決策をみつけようとする姿勢は、その大言に勢いがあっても、さらなる混乱を生み出すだけで、結局は根本的な解決策にはなっていないようだ。
9)解決策といえるかどうかはともかく、数えきれない問題点をこれだけ並べ続けるのなら、その中心点は、一点ではなく、無、空間、エンプティとして存在するしかないだろう。
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