グローバルとプラネタリーを峻別する ゲーリー・スナイダー『場所の詩学』 「異文化コミュニケーション学への招待」
「異文化コミュニケーション学への招待」 場所の詩学 ゲーリー・スナイダー/山里勝己訳
鳥飼玖美子
野田研一
他編みすず書房
2011/12 単行本 484p
Vol.3 No.0804★★★★★
1)スナイダー追っかけの中で出会った一冊。20人以上の内外人が関わっている、6300円もする高価な本である。しかしながら、今回はスナイダーの14ページ分だけが目的なのであり、他の文章は割愛する。
2)2007年8月に、立教大学に招聘研究員として滞在していたスナイダーの講演記録である。
3)場所は、さまざまな大きさを有しています。私たちは、小さな場所から巨大な場所まで、様々な場所を想定することができます。いま私にとって意味のある最も大きな「場所」のスケールは「プラネタリー」なものです。つまり、地球という惑星(プラネット)を一つの場所としてみることです。これよりもっと大きなスケールもあるでしょうが、いまは特に気にしなくともよいでしょう。p188「場所の詩学」
4)「これよりももっと大きなスケールがあるが、いまは特に気にしない」、というあたりは我が意を得たり。当ブログが地球人スピリットと冠していることとの繋がりを感じる。逆に、場所、と言ってしまった場合の、日本語の矮小な深みのない語彙のまま軽視されてしまうことを恐れる。1991年の「スピリット・オブ・プレイス」の語義を、あのシンポジウム以降、深めることができた関係者は多くない。
5)3・11において、「場所」とは、東日本であり、東北であり、沿岸部であり、フクシマであっただろう。あるいは、我が家であり、日本列島であり、太平洋一体であり、地球全体であっただろう。それよりも、拡大して考えることもできないではないが、やはり人間スケールで考えれば、もう地球までで限界だろう。
6)私たちはいま気候変動の可能性に直面しています。これまでの想定を超えるような驚きを秘めた新しい惑星(プラネット)の時代が到来しようとしていることを示唆しているように思われます。
「プラネタリー」というのは新しい用語で、地球という惑星について、流域や生態系、自然の文化、エスニシティ、さらには植生や動物たちを考慮しながら考える際に有用な言葉です。地球はモザイク状の無数の生態系に覆われた惑星なのです。p198同上
7)永幡嘉之「巨大津波は生態系をどう変えたか 生きものたちの東日本大震災」(2012/04 講談社)などは、当ブログとしてはまだまだ読み切れていないが、上の論点から見ても、とても重要な視点だと思う。
8)あるいはまた、ここでスナイダーがこう言っている限りにおいて、この3・11に対するスナイダーの見方が、例の現代詩手帖特集などのレベルであっていいはずはない。
9)「プラネタリー」とほぼ同じ意味で使われる言葉が「グローバル」です。しかし、この言葉の意味をもう一度考えてみてください。「グローバル」という言葉は、国民国家、国境、民族主義、国民国家間の紛争、企業の「世界的な」経営活動、変容する現代の職業や貿易などの意味を含有していますが、このような活動は、自然界に生起していることにはほとんど注意を払いません。私たちは、「プラネタリー」と「グローバル」を、地球という惑星に対する二つの異なるアプローチを意味する言葉として使い分けています。p199同上
10)なるほど、当ブログとしても、この二つの用語は峻別して使っていこう。このほか「ガイア」という用語も多用されてきたが、その「ガイア理論」のジェームズ・ラブロックが、独特な変遷を遂げているので、素直に使えなくなっている。
11)この講演ではうっとりするようなスナイダーの歴史が本人から語られている。その人生は見事に美しいが、しかし、その「美しさ」にうっかり見とれてはいけない。それは、スナイダーがスナイダーの場所を得て生きた結果であり、スナイダーを聴く者は、自らの場所を得て、自らの人生を生きる必要がある。
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コメント
sopan
ハビタット、いい語感ですね。プラネタリーに考え、ハビタットに活動する、と言いかえてもいいかもしれない。プラネタリーを感じ、ハビタットに生きる、としたほうがいいかも。
投稿: Bhavesh | 2012/09/23 09:22
プラネットには宮沢賢治にも通じる自然科学的な響きがあり、グローブは地図や地球儀を連想させる人為的なところがある、付け加えるなら、規模は小さいがハビタット habitat 、動植物が棲息する環境、住環境のこと、生命を中心に据えた言葉もあります。
投稿: sopan | 2012/09/23 08:38