「嘘」は「演劇」の始まり? 石川裕人作・演出『犬の生活』 現代浮世草紙集第四話
「犬の生活」現代浮世草紙集第四話
石川裕人作・演出 1996/02 仙台、東京「第8回大世紀末演劇展」参加 上演台本 石川裕人年表
p86
Vol.3 No.0818★★★☆☆
1)今日は初七日だった。彼にとってはともかく、85歳のお母さんにとっては、ごく当たり前に初七日だったはずである。早いものだ。
2)線香をあげに行くと、家族はたまたま所要で外出しており、お母さんだけがいた。弔辞を読ませていただいたことをお話し、涙がでたよ、どうもありがとう、と言ってもらったのだから、まずはほっとした。
3)お茶をいただきながら、子ども時代から、現在までのいろいろなお話を話し、聞いた。先日から確かめようと思っていたことを、おもむろに切り出した。「ニュートンは、長男なのにどうして裕二という名前をつけられたんですか」。
4)彼からは兄がいたと聞いていたので、あまりお母さんを刺激しないように話してみた。「それ、画数がよかったからでしょ、一より二のほうがよかったのではないかな。」
5)わが耳を疑った。「え、お兄さんがいて、小さい時に亡くなったとニュートンから聞いていたんですが。」 お母さんは、痛い腰を抑えながら大笑いした。「誰~もいませんよ。長男ですよ。」
6)「僕はお父さんが秀一さんだったので、その息子に「二」をつけたと思っていたのですが」、と言うと、お母さんは、「そうそうその通りよ」、とおっしゃった。
7)やられた。先日私は「ニュートンの名前の由来について」なんて勿体ぶった記事をブログにアップしたばかりだ。やっぱりもともと私の推理はズバリだったのだ。そして、彼はすっかり「嘘」をついていたのだ。
8)彼が劇作家を志す「嘘」つき少年だったとしたら、私はジャーナリスト志望で、明智小五郎の助手をつとめる小林少年くらいの洞察力があったはずなのだ(笑)。しかし、この勝負、どうやら、嘘つき少年の勝ちだったようだ。
9)とするならば、先日書いた「ニュートン」というニックネームについてさえ、彼は笑って容認していたけれど、それも間違っている可能性がある。あ~、謎が謎を呼ぶ。
10)母 ラクダ、見てた? こうやってこの人は騙すんだ。いつでもあなたはそう、そうやって私たちを騙し、ほかの女を騙し、会社の同僚を騙して生きていくのよ。優しいのは素振りだけ。ラクダ、これが君の父親の本当の姿、よく見るのよ。上演脚本p53
11)どうやら単純な私は、ここまで嘘について考えたことはなかった。
12)この台本を借りてきてみれば、中に公演後に書かれた新聞記事の解説の切り脱ぎが挟まっていた。、結構シリアスないじめ問題がテーマであった。なるほど、そういう芝居だったか、とわかった。彼もこの時代は結構シリアスな台本を書いていたんだな。
13)帽子 ああ、こんな遊びは中学で終わりだよ。高校になってまでやりたくなんかない。僕はラクダのいじめられてもいじめられてもめげない精神力に尊敬する念すら持つようになっていた。卒業式まであと一ヶ月、もうすぐ終わるはず、長い長い戦いも終わるはずだったけど、お前からゲーム・オーヴァーした。お前は僕のゲームの規則全てを粉微塵にしてしまったんだ。上演台本p76
14)なるほど、こうしてみると、あちこちに、作者自身の奥深く隠されていた多面性をもつキャラクターが、転写されている。
15)彼の「演劇」性は天性のものだったのだろう。
| 固定リンク
« めずらしく社会派?作品ではあるが・・・ 石川裕人作・演出『小銃と味噌汁』 現代浮世草子集 第二話 "OCT/PASS" | トップページ | 月に置き忘れられた宇宙飛行士の野グソ 石川裕人作・演出『祖母からみれば僕たちは荒れ果てたさかしまの夜にうち捨てられた野良犬の骨のようだ』 »
「30)Meditation in the Marketplace2」カテゴリの記事
- 「演劇」性と「瞑想」性がクロスするとき 石川裕人『失われた都市の伝説』 劇団洪洋社1976(2012.10.26)
- 私にとって「演劇」とはなにか<1> 石川裕人作・演出『教祖のオウム 金糸雀のマスク』現代浮世草紙集Vol.3(2012.10.26)
- 幻のポスター発見! 石川裕人第5作目 『夏の日の恋』 贋作愛と誠 1975 <1>(2012.10.25)
- 石川裕人にとって「離脱」とは何か 『石川裕人百本勝負 劇作風雲録』<4>(2012.10.25)
- New-T 発見!石川裕人のあらたなるペンネーム 『仙台平野の歴史津波』 飯沼勇義 <7>(2012.10.24)
コメント