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2012/10/18

月に置き忘れられた宇宙飛行士の野グソ 石川裕人作・演出『祖母からみれば僕たちは荒れ果てたさかしまの夜にうち捨てられた野良犬の骨のようだ』

Samne
「祖母からみれば僕たちは荒れ果てたさかしまの夜にうち捨てられた野良犬の骨のようだ」

石川裕人作・演出 2001/03、2002/03 “OCT/PASS” 上演台本p70 石川裕人年表
Vol.3 No.0819★★★★☆

1)ずーっと疑問に思っていたことがある。
石川裕人の演出は、ダメ出しのほとんどはギャグのところだ。
それも、非常にナンセンスなギャグにこだわるのだ、
作品の重要なところ、テーマに関わる深い部分、にはあまり演出をいれない。
えっ、そこですかい!
とツッコミをいれたくなるようなところを、丁寧に演出する。
「メンバーズブログ」 2012-10-14

2)なにげなくクリックしたページにこんなことが書いてあった。意義深い。直感として、この「ナンセンス」性こそ、「演劇」性と「瞑想」性をつなぐミッシングリンクである。

3)そしたら石川は、
「私はナンセンスなところを非常に大切にしている。
それに、作品の肝になるような大切なセリフは、こっちがとやかく言わなくても、役者がちゃんと考えているんで、大丈夫なんだ。」
と言った。
「メンバーズブログ」 2012-10-14

4)劇団オクトパスのスタート地点でこそ「社会派」を装ってはみたものの、作者がそれから向かい始めた地点は「ナンセンス」性だったのではないか。

5)UZA 僕たちは何に喩えられる?
UZU なに?
UZA 僕たちみたいな子どもが動物や鳥や魚の中にいるだろうか?
UZU いない。
UZA だから、喩えるとだ。
UZU こんな汚くて、みすぼらしいかっこうしたものを喩えられるか?
UZA だから究極の喩えだ。
UZU 難問だ。
UZA こんなのはどうだ? 月に置き忘れられた宇宙飛行士のウンコ、
UZU 心は?
UZA 役に立たないものは二度と日の目をみないってこと。 
上演台本p13

6)「社会派」を装ってドラマツルギーを操っているうちは、彼の「演劇」性は上昇しない。すべて意味(センス)ある表象はすべて投げ捨てられる必要がある。すべてのセンスが捨てられて、ナンセンスの極地にいたり、もう投げ捨てるものなど何もなくなった時、この時こそ、「瞑想」性が立ち上がってくるのだ。ガラクタは投げ捨てられる必要がある。そうして、部屋になにもなくなった時、そこに瞑想がある。

7)UZA おばあちゃん、僕たちいったいなんのために生まれてきたの?
祖母 今度は哲学かい? わしにしてもなんのために生まれてきたかなんてわからないよ。考えたこともないね。いずれお前たちの母親が引取りに来る。来ないかもしれない。来たとしてそうしたらお前達は嬉しくてそんなを考えていたことも忘れるさ。そんな他愛もない愚問だ。
上演台本p61

8)彼が今回入院した時、ケータイに電話があった。ちょうどサキの治療院にいて、彼の話題が出たばっかりのタイミングだった。
「入院するのに保証人が必要らしいのだが、セーコーになってもらうことにしたから」
しばし、口ごもったが、「いいよ」と言わざるを得ない。
「じゃぁ、そちらに行って署名するよ」
「いや、代筆でいいらしい。オレが書いておくから」
「じゃぁ、ハンコ持っていこうか」
「それも、拇印でいいらしいから、オレが押しておく」

9)おいおい、それでいいのか。後からその話を聞いたうちの奥さんは「そういうものは、家族とか身内の人がなるものでしょう」と不満そうだった。まあ、私は彼の家族か身内みたいなものだから、仕方ない。

10)私が営むFP業などの観点からみれば完全にNGである。書類の受理は行われるだろうが、コンプライアンス上、問題がある。何か事があった時、私がそんなこと知らないよ、といえば、勝算はこちら側にあるだろう。

11)しかし、私は逃げることはできない。なぜなら、そのやりとりの一部始終を、すぐ隣でサキが聞いていた。もしサキが私を裏切ってすべてを証言すれば、今度はこちらが負けるだろう。口約束でも約束は約束だ。

12)もちろん、私はそのことを否定するワケはない。サキはサキで「いや~名誉なことだよ」なんて、脇でため息をついていた。

13)「嘘」から始まった彼の「演劇」性は、結局、最後の最後に、彼の手で私の名前を書き、私の印鑑の代わりに、彼自身の拇印を押し、私に「なりすます」ことによって完結したと言える。

14)この地点で、私たちはなにも知らされていなかったが、彼は医師から「余命半年」を告知されて、自分の病状はそれなりに知っていた。

15)彼は、もうひとりの友人と、私たち夫婦の結婚式の司会をしてくれた。とても感動的だった。お返しに二人の結婚式の司会をやってあげようかな、なんて思ったが、二人ともすでに結婚していた。しかたないので、飲み会の度に、冗談で、お礼に君たちの葬式の司会は私がやるから、と約束していたのだった。

16)ところがひょんなことで、もうひとりの友人は再婚することになり、その再婚式の司会はすでに私が担当させていただいた。まずは義理のひとつは返せた。残るは、ニュートンの葬式だった。今回は、葬儀社の女性が司会をしていたので、私は司会はしなかったが、友人代表として「弔辞」を読ませてもらった。彼への義理のひとつはまずは返せただろう。

17)彼の「演劇」性からみれば、最後の最後に、私になりすますという「詐欺」を働くことで一期の幕引きを図ったのだ。一方、私の「瞑想」性からすれば、彼は、アストラル界において、私と一体化することを望んだのである。

18)だから、私は弔辞で「ニュートン、僕たち、どこまでもどこまでも一緒に行こう」と答えたのである。

19)彼が書いた台本はだいたいここまでだろう。そして、彼が演劇作家として、書こうとして書けなかった、本当のドラマは、いまようやく開演しようとしているのである。

20)UZA それから一週間たった朝。
UZU おばあちゃんは死んだ。
UZA 葬儀は簡素だった。
UZU 町の係りの人がそそくさと全てを終えた。
UZA 参列する人もいなかった。
UZU 僕たちにはおばあちゃんの骨だけが残った。
UZA 紙のように軽かったおばあちゃんはもっと軽くなり。
UZU 骨壷の中でカランカランと乾いた音がした。
 上演台本p63

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