語り継がれる何か 伊藤計劃/円城塔『屍者の帝国』
「屍者の帝国」
伊藤計劃/円城塔 2012/08 河出書房新社 単行本 459p
Vol.3 No.0820★★☆☆☆
1)また同級生が亡くなった。本日が葬式だという。残念ながら、仕事で出席はできない。同級会ではまもなく還暦の年祝いをしようと幹事会が動き出しているのに、石川裕人をはじめ、一人欠け、二人欠けして、古びた櫛の歯が、ボロボロと落ちていくような気分だ。
2)先日、「還暦を迎えるわが同期生たちに捧げる10冊(準備編)」なるリストを当ブログにアップしたばかりだ。わずか10日前。この10日間で2人の同級生がなくなった。早い。早すぎるスピードだ。
3)あのリストには石川裕人「時の葦舟」も5冊目に登場させておいた。
4)さて、学校は一緒じゃなかったが、同じ学年を他の学校で過ごした同期生とも年に一度の会食を続けてきている。6人の集まりだが、こちらもまた、この年令に達するとみんななんだかヨレヨレになってきている。白髪になり、腰が曲がり、どこか生気が失われているかのようだ。
5)先日も会食した折、隣の二人がなにやら談笑していたのが、この小説である。居酒屋の会食は、興が盛り上がってくると、隣の席でも声が聞きにくく、連中が話している内容が聞き取れない。面白そうだったので、箸袋にタイトルと著者名を書いてもらい、後日読むことにしておいたのだった。
6)新刊でもあるし、なかなか人気本でもあるらしく、私のところに来るまで時間がかかった。そして来てみたら、あれやこれやの日常の中で、なかなか読み進めないでいた。ほんの20ページほど読んだだけだった。
7)もう読むのをあきらめかけた時、偶然、銀行の待ち時間で週刊誌をめくったら、この小説の解説が一ページにわたって書かれていた。これ幸いと、この記事を読むことで、この小説を通り過ぎようと思う。
8)SF界に彗星のように現れて夭折した伊藤計劃の遺構を受け継ぎ、盟友の円城塔が書き継いで完成させた小説である。清水良典「不気味な技術と闘う者の資格とは」週刊朝日2012/10/26 p78
9)ほう、そうだったのか。演劇「界」どころか、SF「界」のこともなんにも知らない、ほとんど関心もない当ブログのことである。そういうこともあるものか、と驚いた。手元には「伊藤計劃記録」(2010/03 早川書房)もあるので、ちらっとだけめくってみると、なるほど、二人の中のよさそうな対談も載っている。
10)伊藤が残したのは、この「プロローグ」の20ページにすぎないが、その20倍以上を円城に書かせただけのインパクトがある。世界観の濃密さがずば抜けている。清水 同上
11)なんと、ようやく私がめくった20ページだけが前者の作であり、そこからの膨大な後半部分は、後者が書き継いだものだった。きっと、二人とも作風が似通っていて、なおかつ、事前になんらかの打ち合わせのようなものがあったのだろう。
12)ふと考える。石川裕人には書きかけの原稿のようなものはあったのだろうか。もし絶筆というものがあったとするならば、どんなものだっただろう。あるいは日記のようなものが残っているかもしれない。遺族の方々が、もし許してくれるものなら、いつかはそういうことも知りたいものだと思った。
13)もともと、演劇やらSFなどのフィクションやエンターテイメントにはとんと縁のない当ブログとしては、これだけ分厚い小説などをとても読む気にはなれない。次の飲み会まで、話を合わせるために、まぁ、時にはこんな本も手にとることがある、ということだ。
14)チラチラとめくると、なにやら「意識」やら「ネットワーク」やら、面白そうなのだが、それを小説やSFにしてしまう、というところに、わが人生観とは大きく違う何かがあるようだ。
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