書き残された作品群 石川裕人『修羅ニモマケズ』 PLAY KENJI♯4
「修羅ニモマケズ」 PLAY KENJI♯4
石川裕人作・演出 2005/09 仙台市文学館他で上演 上演台本 57p 石川裕人年表
Vol.3 No.0863★★★★★
1)変なタイトルだなぁ、と私なら思う。だいぶ前、1985年の頃だったが、「モラトリアムの時代」とかいう本をだした小此木啓吾という心理学者を、地元のDICTカウンセリング研究所が呼んで講演をしてもらったことがある。その時、主催者側が出したタイトルは「モラトリアムからの脱出」。講演台の後ろに、デカデカと演目が張り出された。
2)ところが、名前を呼ばれ紹介されて登場した小此木は、自己紹介もそそくさとして、すぐ、この演題について延べ、「モラトリアムについてお話はしますが、そこから脱出することをお話をするわけでもなく、脱出すべきものとしてモラトリアムを取り上げるつもりはない」と語り、すぐにこの掲示物を下げるように指示したのだった。
3)彼は戦時中に学徒動員で戦地に駆り出された同世代の青春をみていて、モラトリアムでいることなどできなかった。いまの青年はモラトリアムができるということは、あるいみ素晴らしいことである、と述べた。
4)私もまた「修羅」には「負けてはならない」という発想はない。作者もそうなのかもしれない。ただ、語感としては、「修羅」と「ニモマケズ」とくれば、ああ、これは宮沢賢治の関連の演劇なのだな、とピンとくるので、そういう意味では優れたタイトルなのだろう。あるいは、このタイトル自体で、すでにひとつの問題提起をしているのかもしれない。
5)賢治にとっての修羅
修羅という言葉の響きは怖い。生き地獄のやな意味合いにも取れるし、ぬぐってもぬぐっても消えない自分の痕跡、まるであの洗っても洗っても取れないマクベス夫人の血のようでもある。
賢治は多分生まれたときから死ぬまで自分の中に修羅をかこっていた。あるいはかこっていなければあのような作品群は書き得なかったのかもしれない。
偉大な作家たちの業というか性というか、修羅をかこわなければ、飼い慣らさなければ暴れ者、無頼の徒で終わってしまうところを賢治は耐えた。驚くべき精神性で耐え抜いた。ストイック(禁欲)、ストレンジ(異貌)、スーパーネーチャー(超天性)これが賢治のかこった修羅ではないだろうか。
賢治の才能(超天性)はこの狭い島国をすでにはみ出し(異貌)ていた。そのはみ出したものをなんとか禁欲した。
賢治作品を換骨奪胎して新たな光を当てるPLAY KENJIシリーズ最新作はそんな賢治の修羅三題話を下敷きに、修羅の原点、妹トシとの関係を再考してみたい。
トシがいなかったら賢治は詩を童話をあんなに書き残しただろうか? 石川裕人 公演パンフレットより
6)数多くのテーマで書かれた石川裕人の戯曲に触れるとき、彼もまたなぜあれほどまでにたくさんの作品を書き残したのだろう、と思う。劇作100本目となった「ノーチラス」の上演台本のまえがきで彼は書いている。
7)劇作がなければ今頃詐欺師として牢獄と娑婆を行ったり来たりの人生を送っていたのは確実だ。石川
8)ここまでの石川裕人の中の「修羅」を私はいままで知ることなしにつきあってきた。ただ、彼が宮沢賢治に触れるとき、私は一番共感でき、また、彼の演劇から宮沢賢治を学ぶことができた。とするなら、賢治の修羅は、彼の修羅ともつならなり、また、私の修羅ともつらなっていたのかもしれない。それはまだ明確になっていないに過ぎず、石川裕人を通しての自分探しは、結局、共通項としての「修羅」へと続いていくのかもしれない。
9)けんちゃん トシ?
シグナレス え?
けんちゃん あなたはトシではないのですか?
シグナレス トシ? そう呼ばれていたことがあるかもしれません。
けんちゃん 顔も声もトシそのものなんだけど、
猫 じゃあトシさんだろう。
けんちゃん でもどこか違うような気もする。
猫 どっちなんだよ? すいませんねぇ、ほんとに手のかかるやつで、
シグナレス すいません、わたしも覚えていなくて、
猫 いやいやそれより、あの青い星、どこかで見たことがあるんですけど、
シグナレス 地球です。
猫 地球って、地球かい?
シグナレス そう、地球。
猫 じゃあここはどこなの?
シグナレス 地球の鏡の星、
猫 はああん?
シグナレス さあ、扉をどかしましょう。 台本p48
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