歌い踊るひとりの地球人として 小出裕章『この国は原発事故から何を学んだのか』
「この国は原発事故から何を学んだのか」
小出裕章 2012/09 幻冬舎ルネッサンス 新書 222p
Vol.3No.0850 ★★★★★
1)小出氏の本は首尾一貫しているので、どの本を一冊取り上げても、ほぼ内容の基本は同じである。語りかける対象や発行された年月によって、データが更新されていたりはするが、根本思想はなにひとつ変わっていない。
2)この本はその中でも、氏の著書の中でも最新の部類に入り、3・11から一年半が経過して、その間の言行録を編集者が整理したもの(らしい)だから、まとまり具合はなおさらいい。
3)「この国は原発事故から何を学んだのか」という問いがあるとすれば、ここの「国」をどう読むかで回答は違ってくる。「国」に住む「国民」ひとりひとりは何を学んだのか、といえば、ここで氏が語っているような内容を学んだのである。あるいは学ばなくてはならない。
4)だが、もし「国」を、「国」という行政、「国」という組織、「国」という権力、と読むのなら、この「国」は、少なくとも、この本で指摘されているようなことを、ほとんど(なにひとつ)学ばなかったのでないか、という強烈な指摘が含まれている。
5)つまり、ここに「権力」と「人間」との大きな乖離が示されている。
6)ただこのタイトルに難をつけるとうるならば、「国」と限定してしまっていることである。氏の活動が、一貫していることはすばらしいことであるし、「国民」のひとりとして、まだまだ大いに学び、自分ができることを「行動」しなければならないと思う。
7)しかしながら、私や当ブログのテーマは、「国」というところにポイントをおいていない。「地球」というところにおいている。そして、ひとつ「原発」を考えればいいと思っているわけでもない。そこからいかに「スピリチュアリティ」へと昇華していくのか、に関心がある。
8)氏が宮沢賢治の「グスコーブドリ」(p145)を取り上げ、「農民芸術概論綱要」(P16)をとりあげつつ、精神性について語りながら、宗教には無縁である、と言い切ってしまう時、終始一貫して「原発」に取り組んできた氏の頑なまでの意志力を感じ、敬服しつつも、そこに何事かの隙間を見つけ、自らの存在意義をみつけようとする自分がいる。
9)現在、当ブログにおいては、劇作家・石川裕人の死去にともなって追悼の意をこめてその表現物たちを追っかけ中である。その中に1971/03/26の「朝日ジャーナル」増刊号ミニコミ特集の中に、高校時代の私や石川の幼きミニコミと並んで、「のりひび」もまた、宮城県からの9紙の中に含まれていることに意義深いものを感じる。
10)、「全国原子力化学技術者連合仙台支部、東北大反公害闘争委員会、仙台市東北大工学部内・女川原発実力阻止」 これが「のりひび」の紹介文である。この機関紙については、「原発のないふるさとを」(小出裕章土井淑平共著 2012/02批評社)の中で、当時の機関紙の写真つきで紹介されている。当時から氏は一貫して、叫びつづけてきたのだった。
11)私は原子力の専門家として、原子力に反対しています。原子力については皆さんより詳しいと思いますが、その代わり、お米の作り方も魚の捕り方も知らず、職人さんのように物を作る力も、絵を描いたり、詩を書いたり、歌ったり、踊ったりすることもできません。
皆さんは原子力の専門家ではないかもしれませんが、それぞれの生活の場においては専門家であると思います。その力を存分に発揮していただければと思います。p214小出「自分なりの取り組み方で、できることから。
12)ご謙遜を、と思いつつも、まったくその通りだなぁ、と思う。できるところから、自分の足元から見つめていかなくてはならない。そう思いつつも、私なら、小出氏も「絵を描いたり、詩を書いたり、歌ったり、踊ったり」するべきだと思う。あるいはできる方であるし、それこそが、「国」や「国民」を超えた、地球に生きる地球人ひとりひとりの新しい生き方だと思う。
13)科学と、芸術と、意識。この三つの要素をバランスよく一個の人間に配分すること。あるいは統合すること。そのことを、当ブログの目標としたい。
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