演劇が事実を超える時 石川裕人『わからないこと』(戯曲短篇集) 「遥かなり甲子園」「兆し」「わからないこと」
「わからないこと」(戯曲短篇集) 「遥かなり甲子園」「兆し」「わからないこと」
石川裕人作・演出 2001/11 " OCT/PASS"スタジオ 上演台本34p+37p+21p石川裕人年表
Vol.3 No.0865★★★★★
1)「遥かなり甲子園」。この作品はいまだに納得がいかない。何度か再演されたようであり、なんらかの形で情報が漏れてきて、その度に、なんだか茶化されたような気になってきた。ごくごく最近まで。
2)しかし、最近、石川裕人追っかけをしてみて、初めて事実を知り、実は唖然となってしまっている。
3)東北の宮城と山形と秋田の県境あたりに辺非理という村があると聞く。行った訳ではないのでどういう村かはわからないが、おおよそ東北の寒村のイメージ通りだと思っていい。決して椰子の木などない。
このお話は数年前この村で起こったことをさも見てきたように芝居にしたものである。だから勿論信憑性はない。上演台本p1
4)いえいえトンデモない。ものすごく信憑性があるのである。
5)ラジオ 「さてあと一人打ち取れば甲子園です。夢に見たでありましょう全国高校野球児達のあこがれの舞台。ピッチャー勢後投げた、打った。内野フライだ。セカンド肥田快晴の上空に白球をとらえた、取った!! 辺非理高校県大会初優勝!! 部員9名、奇跡の甲子園です!!」
沼倉(PTA会長) 校長!!
物草(辺非理高校校長) 嘘だべ!! 上演台本2p
6)私は2002年某県立高校のPTA会長をしていた。そして、本当に県大会を制覇して、野球部が甲子園に行ったのだ。
7)沼倉 まあそうなあ、きみおちゃん、ざっくばらんに聞くけどよ。大体幾らくらいかかるもんだ?
具多良(辺非理高校野球部監督) 種と除草剤、肥料と、
沼倉 おめえのとこの農業の必要経費聞いてんじゃねえ、甲子園に行く費用だ。
具多良 んだが、
沼倉 んだ。
具多良 甲子園までの往復旅費、宿賃、食費、高野連のお偉方の接待費、
笊森(事務員)あの、
沼倉 なんだ?
笊森 甲子園ってのはどこにあるんだ? 上演台本p13
8)私たちの県では、長いこと、二大私立高校が春夏の甲子園出場を果たしており、たまに公立高校が出てもごくわずかな市立高校だけに限られていた。県立高校として野球部が甲子園に行くのは、実に50年ぶりだったのである。県の教育委員会としても、どのように甲子園に送り出すのか、知っている職員はひとりもいなかった。
9)時の関係者の動揺はまさに、この芝居の脚本のようなドタバタ劇が展開されていたのだ。夏の甲子園に対して、この芝居が書かれたのは冬。まぁ、よくも茶化してこんな芝居を書いてくれたもんだ、と、思っていた。図星とは言え、なんとも気持ちがいいものではない。だから、ますます石川裕人の演劇が嫌いになった(笑)。
10)ああ、しかし、それは私側の大いなる誤解だったようだ。何回も資料をひっくり返してみたのだが、私たちの高校野球部が甲子園に行ったのは2002年の夏だったが、この芝居が書かれたのは、なんと、その半年後ではなく、半年前の2001年冬のことだったのだ。
11)つまり、演劇のほうが先で、事実があとだった。つまり、この芝居は、予言劇!ということになる。ああ、びっくりした。校長、P会長、監督、事務員、4人だけのお芝居。まぁ、大体がお察しの通りの展開だった。短編だから、後半部分については書いていないが、まぁ、さすがにすごい洞察力、といまさらながらに、ああ驚いた。彼が書いた脚本に踊らされていたような気さえする。
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