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2012/12/05

日本演出者協会+西堂行人 『八〇年代・小劇場演劇の展開』 演出家の仕事③<2>

<1>よりつづく


「八〇年代・小劇場演劇の展開」 <2>
日本演出者協会+西堂行人 2009/10 れんが書房新社 単行本  305p

1)この本、面白いかも。年末の師走に入り、新たなる訃報が飛び込み、パソコンが突然クラッシュして使用不能になるなどの、三重苦の中で、読書を続けるのも容易ではない。ましてや、この天下分け目の選挙戦が告示されたなかで、30年前を振り返っていられるか、という思いもある。

2)しかしながら、そういうタイミングだからこそ、のうのうと当ブログはわが境地をいくのである。むしろ、一つの時代を設定して振り返ってみることは、現在のわが身がおかれている地平を再認識するよいきっかけにもなるようだ。

3)この本、シリーズの第三巻になるので、60年代、70年代、80年代、の振り返りとなるものと考えていたが、第二巻は、「戦後新劇」となるのであり、第一巻の「60年代・アングラ・演劇革命」は、必ずしも「60年代」にフォーカスしたものではなかったのだ。つまり、第一巻は60年代、70年代から80年代への橋渡しあたりまでをフォローしているのであった。

4)こちらの「80年代」は、まだ4分の1強まで読み進めたところであり、一冊まるまんま総括することはできないが、ここまでの時点での印象をランダムにメモしておく。

5)この第三巻は、第一巻の「60年代・・」とセットとして、読み方によってはきわめて重要な一冊になる可能性はある。それは読み方だ。「80年代の石川裕人」さがし、という矮小な視点で考えれば、あまり重要な情報源とはならない。すくなくとも巻末の演出家としての紹介以外、本文に彼がでてくるチャンスはなさそうだ。

6)ただ、この本自体は、いわゆる「演劇」性あふるる筆致ではなく、いわゆる社会学的ノンフィクション的スタイルで書かれているので、事実の追認という煩雑な作業はあるが、それを読みこなすことができれば、まことに手ごろな戦後「日本」の思想史・文化史を鳥瞰するよい視点を与えてくれるようだ。

7)石川裕人は、60年代、70年代の自分の「演劇」史をほとんど抹殺した形で、いかにも「80年代」に登場したかに見せているが、実際は、「70年代」の助走こそ、もっと語ってしかるべきだと思う。

8)90年代以降、特に”OCT/PASS"以降の彼は、時代の波に乗って、公共の援助資金などを活用してなんとか「食える」とこまで来ていたようではあるが、それは彼ひとりの状況ではなくて、いわゆる「小劇場」が抱える状況を彼なりに味わっていた、ということだけである。よくも悪くも。

9)バブル期の「80年代」の、たとえば野田秀樹と夢の遊民社の活動に象徴されるような「演劇」性の中で、石川が逡巡していった姿がなんとなく彷彿としてくる。それまで続いていたいわゆる「アングラ」的な「演劇」性が、野田が83年に岸田戯曲賞を受賞し、次第に「変質」していく姿を見て、石川は敢えて自らをなにかの時代のマーケットのニーズに合わせていくことを拒否していたかのようだ。

10)つまり、この時点ですでに70年代、あるいは60年代への回帰、あるいは保守を試みているようだ。この時期の彼の「水の三部作」は、そのような演劇「界」状況の中で、読み解かれる必要があろう。

11)演劇「界」がますます「小状況」化する中で、もともと期待されていた演劇の「革命性」は、次第に80年代において換骨奪胎され、バブル崩壊とともに、90年代以降の「演劇」は、いわゆる「アングラ」的なものから見事に切り離されていった。

12)しかし、そのような90年代的な状況の中を泳ぎきることが、石川個人の固体史としての「演劇」性であってみれば、”OCT/PASS"時代のコンビニ「的」劇作・演出家としての、彼の存在様式は、彼の加齢状況から考えても、ある種、仕方のないこと、現実的なこととしてあっただろう。

13)しかるに、彼はそれをよしとは思っていなかった。晩年になって、「アングラ・サーカス」を提唱し、その「大作」に試みる姿勢を強く見せていたのは、その現れてであろう。そして、その「アングラ」には、いわゆる「60年代」的な芝居状況が暗に想起されているのであり、ここでここに帰るなら、やはり、彼は自らの「60年代的、70年代的」個性をよりしっかりと再認識しておく必要があっただろう。

<3>につづく

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