『世界が日本のことを考えている』 3.11後の文明を問うー17賢人のメッセージ<3> 共同通信社
「世界が日本のことを考えている」 3.11後の文明を問うー17賢人のメッセージ <3>
共同通信社 2012/03 太郎次郎社 単行本 271p
★★★★★
1)もういちどこの本を読みたくなった。今度は最初から最後まで一通り読み通した。三度目となれば、全体を通して、とてもわかりやすく、親密な本であることがますますわかってきた。
2)「大災害を生き延びたわれわれもこの世を去らねばならないときが来ます。だからこそ、なくしたもののことばかり考えず、現在に意識を置き人生を築いていかねばならないのです」。いまだ深い傷を抱えるミャンマー南西部デルタ地帯の被災地で、人々を支え続ける3人の僧侶、ウ・プニャ・サラ、アシン・パラ・サミ、ウパニャ・シリが東日本大震災の被災地を思い、語った。p10「人は自分地震を救わねばなりません」
3)この本は、この3人へのインタビューから始まる。
4)2008年5月2日夜から3日にかけ、ミャンマーの最大都市ヤンゴンや南西部エヤワディ管区のイラワジ川大デルタ地帯などを大型サイクロンが直撃した。住民によると、暴風雨により海水が川を伝い、津波のように町や村を襲った。死者・行方不明者は約14万人、被災者は約240万人、被災遺児は数千人から数万人いると見られる。国連食糧農業機関(FAO)は、マングローブ伐採と乱開発が、被害を拡大したとの報告を発表した。p11同上
5)私はたった数年前に起きたこの天災(人災)にどれだけ注意を払っていたことだろう。いや、遠く離れてしまえば、国内の阪神淡路大震災でさえ、リアリティを持って感じることはなかったかもしれない。3・11、今回は身近な、ごくごく近い足元に起きたことだったから、避けるに避けられないこととなってしまった。
6)「あのサイクロンから3年たった今も人々は、喪失の痛みから抜け出せていません。われわれは心と身体を制御できるよう瞑想の方法を教えています。苦しみは過去と未来にばかり思いを置くことから生まれるのです。
瞑想では、苦しみに意識を集中させるのではなく、生命活動の基本である自分の呼吸に意識を集中させます。心をさまよさせず、現在の自分に集中することを習得するのです。
これにより、苦しみを完全に忘れることはできませんが、軽減できるようになります。苦痛もまた、永遠ではありません。これが自分を変えるもっともよい方法なのです。
人は自分自身を救わねばなりません。自分を救うのは自分以外にはないのです。神でもほかの人でもなく、自分自身なのです」(ウ・プニャ・サラ) p17 同上
7)13人に及んでいるインタビューのトップバッターであるこの人々によって、すでに、私が一読者としてこの本から受信すべきことは語り尽くされているのではないだろうか。
8)宗教は言葉だけではなく、行動が伴ってこそ意味を持つのです。善は言葉だけではなく行動を伴って達せられると仏陀はいっています。わたしは僧侶という仕事で奉仕することで、自分自身を救い、心の平安を得ているのです」(ウ・パニャ・シリ) p16同上
9)私は瞑想することによって、自らを救い、カウンセラーという役割で、あるいは日々の仕事で、行動のともなった意味ある活動をし得ているだろうか。
10)「僧侶の仕事は、精神的な痛みを軽減する手助けをすることです。人は、過去の苦しみをすべて忘れてしまうことはできません。現実を受け入れて現在を生き、道徳を守って生きていくことは人生を歩んでいくうえでとても大切なことです。これができれば結果的に亡くなった子供たちを救うことになると、ある母親に話したことがあります」(アシン・パラ・サミ) p17同上
11)ここまでくると定型的な仏教的応答と感じてしまうことになるが、それでも、ミャンマーの被災地という現場にあって、行動をともなう活動をしている僧侶たちの言葉には、計り知れない説得力がある。
12)「・・・40年前の米国やドイツがそうだったように、どの国も減速期を迎えるものです。日本もかつては朝鮮半島、中国の半分、東南アジアを占領し、真珠湾を爆破して米国を攻撃する恐るべき国でした。結局は敗戦に終わりましたが、世界中を驚かせました。
英国、フランスもかつては世界のまさに頂点にいましたが、今はそうではありません。それでも彼らは依然創造的で賢い人々です。トップでなくなってもよい国をつくっていけるのです」 p212「『希望』のナショナリズム」ベネディクト・アンダーソン
13)人が内面に入るとすれば「瞑想」だろうが、外側で人に対峙するのは「国」なのか、「自然=地球環境」なのか。
14)「・・・・第2次世界大戦のあと、日本は経済再建に成功し、日本人は再び自信を持つようになりました。日本はすべての原子力発電所をチェックし、より安全にするための措置をとるべきだ、とアドバイスします。
2004年に起きたスマトラ沖地震ではインドにも津波が押し寄せました。だから、インドは地震と津波に耐える原発を設計するようになりました。国家の境遇に見合う技術の開発は、どの国も行っているのです」p191 「科学者は難問に立ち向かえ」アブドル・カラム
15)アブドル・カラムは「インドの核ミサイルの父」と呼ばれる科学者で、2002年から07年までインドの第11代大統領を務めた。1931年生まれだから、Oshoと同じ年にインドで生まれた。電灯もない南部の貧しいイスラム家庭に生まれ、毎朝4時に起きて新聞配達をしながら学校に通った、という。
16)個人的には立志伝中の人であり、素晴らしいライフ・ストーリーを持っていることだろう。しかし、こと核問題については、この本の13人の中では、最右翼である。私個人は、アントニオ・ネグリの「マルチチュード」に惹かれてこの本を手にとったわけだから、まったく対極にある意見であるので、簡単に彼の言説を認めるわけにはいかない。
17)ある調査によれば、あと数十年すると、世界経済ではGNPの順位は、中国、インド、アメリカ、日本、という順番になるという。中国もインドも、「経済」隆興に向かって疾走しているのだ。もし、インドがアメリカや日本を抜いて経済隆興するなら、このアブドル・カラムという人物の仕事は、大いに貢献していることになる。
18)しかし、地球人全体として見た場合、「核」に対する共通認識は、これではまずい。そんな段階はとっくに通り過ぎてしまったのだ。このオムニバス本の中で、この人物のような意見が無視され抹殺されることは好まないが、主流になられては困る。
19)どれだけの日本の言論人、日本の人が、自分の行き方と、現在の世界のあり方とを直接に結ぶ、そのようなあり方を自分の流儀として生きているだろうか。
わたしが言うのは、もし1メートルの物差しがあるとしたら、どれだけの人が日本で、一方の端のゼロぎりぎりのところと、他方の1メートルギリギリのところの二つを含んで、両手を広げ、自然体で、両端を手に、考えているだろうか、ということである。
中間の20センチから他方の80センチくらいのところ、日本の社会や政治や経済、文化にあたるあたりを詳しく、深く、考えている人が大半なのではないだろうか。
日本の言論は、自分に見えない世界の人々への共感と、また社会から見えない自分のない奥のささやかでちっぽけな感情への顧慮の部分で、欠けている。萎れている。
みんなが似たところにスポットを向け、一方、両端が、暗い。そういうことを、この本に収められた特にアジアとラテンアメリカ、アフリカの政治家、運動家、僧侶、芸術家たちのインタビューから、わたしは、感じる。p267加藤典洋「世界から、そして世界へ」
20)今日は国政選挙である。自らの意見を託するには、どの候補者でも、どの政党でも、納得がいかない。しかし、この選択肢の中から、なにごとかの表現をしなければならない。絶望するには早すぎるだろうが、希望を持ち続けるには、もう時間が少ない。
21)当ブログが、1メートル全体に対して興味を持ち続けることは困難だとしても、加藤いうところの両端20センチのところに対して、「欠けている」とか「萎れている」などと評価されることは好まない。
22)この本はなかなかバランスがいい。そのうち、また手にとってみたくなるだろう。
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