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2012/12/26

TheaterGroup“OCT/PASS”Vol.32  『風来~風喰らい 人さらい~』 石川裕人・作・構成・演出

Huurai
『風来~風喰らい 人さらい~』 石川裕人作・演出 TheatreGroup“OCT/PASS” Vol.32 2010/02 上演台本 精華演劇祭 2010 SPRING/SUMMER 参加 113p 石川裕人年表
Vol.3 No.0899★★★★☆

1)そもそも、演劇台本だけで芝居そのものを想像してみようというのは、かなり無理があるようだ。このフライアーと芝居台本をつなげてみると、少しはイメージが湧いてくる。よくよくみると「アングラサーカス」と銘打っている。そうなれば、ますます台本というだけではまったくの片手落ちだ。

2)演劇において、この「作・演出」というのは曲者だ。大体のストーリーがあり、大きな構成は書かれているが、実際の細かいディティールや背景、位置、照明、音楽などは、ほとんど、あるいはまったく台本には書かれていないからだ。すべては「演出家」の頭のなかにある。

3)そもそも「特権的肉体論」という奴は、唐十郎から始まる「あてがき」というシステムで成り立っている。つまり、役者ありきなのだ。具体的な、劇団員である、誰々という「個性」があり、そのキャラクターをどう活かすかを考えて、演劇台本は出来上がっていくのだ。

4)本を読みながらテレビの音声だけ聞いていると、なんだか違和感があるなぁ、と思うときがある。あらためて画面をみてみると、なるほど、この人の、この声質と、この発言なら納得、ということがよくある。肉体と言葉は、微妙にずれていて、なおかつフィットしている。両方があって、さらなる立体感が浮かび上がってくるのだ。

5)これが演劇なら、逆に、このキャラクターなら絶対このセリフはいわないだろう、というような逆の組み合わせもありうるだろう。そのあたりの面白さは、演劇そのものを見ないと感じることはできない。そして、その中に溶け込んでいかないと、更に分からない。

6)ましてや、時間と空間に、一回性で登場する「演劇」性に、あとから上演台本を読んでどうのこうの言うのは、なんだか、あまりにも気恥ずかしい行為である。だが、そうでもしないではいられないほど、後追いをしてみたい、ということもある。

7)今朝も風の強い朝だった。寒波到来である。日本海側は相当な雪になるそうだ。石川裕人100本目となった「ノーチラス」と、3・11後に書かれた102本目「人や銀河や修羅や海胆は」のあいだで、この「風来」は書かれ、上演されている。

8)地、水、火、風。四つあるうちの元素のうち、石川演劇は、どの元素が一番にあっているだろうか。地と火は割と簡単に削除することができる。では水と風、どちらが石川作品のテーマと通じ合うだろうか。

9)両方とも流れる、という意味では、水でも風でもよさそうだ。風の又三郎やこの風来から連想してみれば、石川を「風」の作家としてみることも可能かもしれない。しかし、私には、石川作品とは、水と風の巻き起こす葛藤から出来上がっていると、感じる。

10)「水」は高きところから低きところに流れ続ける。「風」は方向も定めず早さも量にも限りがない。似て非なるものが、この水と風だ。水面にて、突風に巻き込まれて、波立つ波紋。これが石川演劇の本質だったのではないか。

11)人物は「水」であっただろう。作品は「風」を目指した。しかし、風ほどには高く行かなかった。かと行って、大地のごとく動かざる重量感を持っていたとは言い難いし、燃えて燃えて燃え尽きたというほどの情念でもなかった。

12)源鉄 そんな走る意志のないチャリがそんなに大事か?

オマツ お前のようなチャリ製造オタクにはわかるまい。無意味なモノ、非実用的なモノへの偏愛が。上演台本p97

13)演劇という、「無意味なモノ、非実用的なモノへの偏愛」は、水と風との葛藤から来ているように思う。「地」という保守性、「火」という爆発力を、補完しようとする、全体性への希求の中で、結局、石川演劇が進もうとしていたのは「風」の要素が一番強かったのだろう。

14)「風来~風喰らい 人さらい~」。石川晩年にふさわしいテーマであったといえる。

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