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2013/01/30

『ウェブ進化論』 本当の大変化はこれから始まる 梅田望夫<46>

<45>からつづく

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「ウェブ進化論」 本当の大変化はこれから始まる<46>
梅田望夫 2006/02 筑摩書房 新書 249p
★★★★☆

1)「ウェブ進化論」は、当ブログの原点である。ブログ機能を登録しても何も書くことができなかった。半年後にこの本を読むことによって、ブログとしてゆっくりうごきだした。当時のことを考えるととても懐かしい。あれからもう7年も経つのか、とびっくり。それにしても「ウェブ2.0」とはなんだったのだろうか。

2)最近iPadを使い始めて、そういえばこの「ウェブ進化論」には、マックやアップル、スティーブ・ジョブズという単語はでてきたのだろうか、とちょっと不思議な気分になった。そしてまた久しぶりにこの本をぱらぱらめくってみた。

3)例によってのパラパラ読みだから確実ではないが、この本の中では、アップルが登場するのはごくわずか。しかも、まともには、「ウェブ2・0」の中核には据えられていない。

4)グーグルは間違いなく、IBM、DEC、インテル、マイクロソフト、アップルといった、IT産業(昔はコンピュータ産業と言った)にパラダイムシフトを引き起こす「10年に一度現れる特別な企業である。こういうIT産業における破壊的イノベータは、これまで米国からしか現れていなくて、最も新しいグーグルも、ごく自然に米国から生まれただけのことである。p90「グーグル---知の世界を再構成する」

5)手元にある「ジョブズ伝説」 の巻末年表によれば、アメリカで初代iPhoneが発売されたのは2007年6月29日。ジョブズがiPadを発表したのは2010年1月27日になる。梅田望夫の「ウェブ進化論」がでた2006年2月には、アップルはiPodやiTuneと言った、エンターテイメントのほうに偏っていて、梅田の目には、すでに過去の企業と映っていたのかもしれない。

6)アップルの「iチューンズ・ミュージックストア(iTMS)」関係者によると、取り扱っている100万曲を遥かに超える楽曲の中で一回もダウンロードされなかった曲はないらしい。ロングテールは長く連なっており、大ヒット依存のリアル世界とは全く異なる経済原則で事業モデルが成立しはじめている。p101「ロングテールとweb2.0」

7)このような形で紹介はされているのだが、読者としての私自身は、ネットで楽曲をダウンロードして云々というスタイルにはまったく関心がなかったので、完全に見落としていたのだろう。梅田もまた、まだしっかりと、このiTuneの将来性を見届けていた、とは言い難いだろう。

8)「アップルコンピュータが日本でスタートするという事から、日本のマスコミがこのところ、どのサイトが優位で、どのサイトが劣勢になるかといった話や、どのサイトが100万曲を用意したが、このサイトはまだ20万曲しか用意していないとか、そんな話しで持ちきりです。

 でもこういった話題の中に、音楽のにおいがまったくしません。(中略)音楽ビジネスを担う人達が、インターネットの利用の仕方を有料配信のところにだけ焦点を当てている事に、大きな不満を感じています。(中略)「配信」には新しい物を生み出すという思想は何もなく、過去の財産をどの様に運用するかという、まるで金融業者が、お金を取り引きしている様に見えます。」p109同上

9)他人の文章を引用する形ではあるが、婉曲にiTuneなどの台頭に疑問を投げかけている。敢えていうなら、私などはさらにこの意見を強調する立場にいるわけで、だから、長いことマック派にはならなかった、ということでもあった。

10)だが・・・・・、梅田のような経営コンサルタントが「ビジネス」を疑問視したりするのは、どこか「プロ」ではないということになるのではないか。むしろ、ジョブズなどは、激しく「プロ」意識を持っていたがゆえに、力づくで、梅田流の「ウェブ進化論」をぶっ飛ばしてしまったのではないだろうか。

11)「知的生産の道具」と聞けば大抵のものは試してみるということを続けて、かれこれもう30年近くなる。スクラップブック、京大型カードから始まって、ハイパーカードを使うためにアップルのマッキントッシュを買ったり、アウトラインプロセッサを試したり、ブラウザの出始めのときはその上手な活用法を考えたり・・・・・。

 新聞や雑誌から切り抜いた資料のスクラップには、大量のクリアファイルも使った時期があった。日ごろ使うノートや手帳やメモ用紙やポストイットなども、それぞれ何十種類も試した結果、自分の好みを定め、現在に至っている。p165「ブログと総表現社会」

12)このくだりでは完全に、マックは過去の遺物となっている。それこそウェブ1・0の更に前、という紹介の仕方である。ここで梅田が絶賛していた「ブログ」機能もまた、2013年においては、かなり過去の遺物になりつつある。現在の「マス・コラボレーション」と言えば、やはりなんと言ってもツイッターだろうし、フェイスブックである。しかし、「ウェブ進化論」がでた2006年にはまだ、これらの新しいサービスは登場していなかった。

13)ビル・ゲイツ。パーソナルコンピューティングの時代を切り拓いた天才は、1955年に生まれた。大学に入ってまもなく会社を興し、マイクロソフトは1975年に創業された。早いものでゲイツが50歳に、マイクロソフトも30歳になった。p217「ウェブ進化は世代交代によって」

14)2006年にまだまだ将来を見据えていたジョブズがこの文章に触れたら、逆上したに違いない。ゲイツの仕事も大したものだったが、それを上回るのはジョブズ本人だけなのだ、という自負は強烈に持っていただろう。梅田はグーグルやマイクロソフトを持ちあげるあまり、ジョブズとアップルを、少なくともこの本では低く評価し、見逃している。

15)2013年の現在、インターネットは当たり前のインフラとなり、卓上のパソコンなどは、当たり前の家電となっている。あるのがもう当たり前の時代だ。今や、主戦場は、無線LANであり、スマホであり、タブレットである。グーグルのネクサス7や、ウィンドウズ8などのタブレットも善戦しているが、この分野を切り開いたのはアップルだった。特に最晩年のスティーブ・ジョブズは、渾身の力を込めて、この世に最後の華を咲かせた。

16)たしかにアップル製品は、「知的<消費>の道具」という感は否めない。提供されるエンターテイメントには磨きがかかる一方だが、すべてがブラックボックス化して、DIY的感覚は薄れつつある。こしらえられた選択肢のなかの組み合わせを楽しむ程度に押し込められつつあるように思う。

17)スティーブ・ジョブズには「アートとコンピュータを融合した男」という表現が贈られている。そしてまた、ジョブズは禅にも意識を遊ばせ、コンシャスネスをもまた取り込もうとしていた。

18)「ウェブ進化論」という本自体、当時の状況を一つかみにした梅田が、5週間をかけて作り上げた、ひとつの作品だった。一冊の新書としての完成度は高い。だが、すべてが流動的なものであり、また、もともとがひとくくりにはできないものの総称なのであって、「最終形」とはなりえない。2・0があれば、3・0をも想起させてしまうような、脆弱さがある。

19)それに比し、ジョブズが生んだタブレット革命は、ある種の「最終形」を予感させる。iPodからiPhoneときて、iPadまでくれば、かつてマサチューセッツ大のメディアラボでアラン・ケイが走り書きしたダイナブックは、形としては完成してしまったはずなのである。

20)詳しくは知らないが、グーグルのアンドロイドもリナックスベースだし、iOSも確かリナックスベースになったのではなかっただろうか。梅田いうところのウェブ2.0の三本柱の一つであるオープンソースは、ネット社会の基礎として存在感を確かなものしたといえるだろう。しかしながら、ウブンツやリブレ・オフィスと名前が変わったオープン・オフィス・オーグなども、正直言って、時代の先端からすこし遅れつつあるのではないか。タブレットの時代、リナックスは、私のようなエンド・ユーザーからは限りなく遠ざかっているように感じる。

21)そういう意味では、梅田は確かに日本にウェブ2.0を華麗に紹介してくれたが、当時、揶揄的に、あちこちから言われたウェブ<3.0>、今、それは静かに始まりつつあるのではないか。ジョブズがサイエンスとアートを融合したとすれば、これからの地球人社会は、コンシャスネスとの絡みに、さらに関心を持たざるを得なくなるはずである。

<47>につづく

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コメント

大変に参考になりました。私も知的生産オタクで、オリジナル商品も作成してきています。最終的に、メモに行き着いた私です。いろいろとご教授寝返れば幸いです。ありがとうございました。

投稿: 山本英夫 | 2013/02/11 09:51

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