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2013/02/14

「仕事するのにオフィスはいらない」 ノマドワーキングのすすめ 佐々木俊尚<1>


「仕事するのにオフィスはいらない」ノマドワーキングのすすめ<1>
佐々木俊尚 2009/07 光文社 新書 243p
Vol.3 No.0916★★★☆☆

1)この人の本は一時期、全部追いかけていたのだが、ある時期から、まったく追いかけなくなってしまった。理由はいろいろあるが、あまりに量産されることと、新書にまとめられるのが、一度どこかで発表されたものの再録が多くなり、新鮮であるはずの情報がどうも二番煎じのような、中途半端なイメージが漂い始めたからだった。

2)あるいは、当ブログが、科学、芸術、意識、のトリニティの中の「意識」にターゲットを絞っていったからだった。この本はすでに3年半の本である。紹介されているのが、ブラックベリー端末であったり、データ通信カードだったりするところが、今となってはご愛嬌だが、この時代で、「ノマド」を表現し、活用するとすれば、このような形にならざるを得なかったのだろう、と納得できる。

3)この本で表現されているライフスタイルは、2013年においては、必ずしも特殊なものではなく、ある意味、多く取り入れられている。私自身のスタイルも、書かれているほど、これだけバッチリ決まっているわけではないが、取り入れることができるところは全ては取り入れ完了となっている。

4)かつてトフラーの「第三の波」で表現されたエレクトロニック・コテッジは、ごく当たり前のものとなり、そこをはるかに後にしようとしている。それがよいかどうかはともかく、そういう生き方をしようとすれば出来る環境が、ほぼ出揃った、ということができる。

5)だから今回この新書本をめくることで私が新たに得るものは、それほどない。あるとすれば、後半、あるいは巻末 にかかっての、そもそもの「ノマド」論についてであろう。

6)ドゥルーズとガタリは、そういう世界観に異議を申し立てて、そのかわりに「リゾーム」という概念を提案しました。リゾームというのは日本語で言えば「根茎」。土の中で植物の根が絡み合い、網の目のようになっておたがいにつながりあっている様子を想像してみてください。そのようにしてさまざまな異質なもの同士が、自由自在にそしてダイナミックにつながりあいながら、単に上を目指すのではなく、自分の好むさまざまな方向へと根を伸ばして行く、そんなイメージです。p227「ドゥルーズ/ガタリの提唱したノマド」

7)当ブログがようやくノマドというキーワードを意識したのは、松村太郎「タブレット革命」(2010/09 アスキー・メディアワークス)であった。ごくごく最近のことである。そこでドゥルーズの「千のプラトー」を知り、ちょっとめくってみたのだが、超分厚い本なので、今時、この本に取り組む余裕はないなぁ、とため息をついた。

8)ただ、ドゥルーズには昔から食指が動いた。「ドゥルーズの哲学」(小泉義之 2000/05  講談社)もだいぶ前にメモしておいた。「哲学とは何か」ジル・ドゥルーズ /フェリックス・ガタリ 1997/10 河出書房新社)とか、「西田幾多郎の生命哲学」ベルクソン、ドゥルーズと響き合う思考 桧垣立哉 2005/01 講談社)、「現代思想の使い方」(高田明典 2006/10 秀和システム)、「哲学者たちの死に方」(サイモン・クリッチリー 2009/8 河出書房新社)、「ポストモダンの共産主義」(スラヴォイ・ジジェク 2010/07 筑摩書房)、あるいは「死の哲学」(江川隆男 2005/12 河出書房新社)、などなど・・・・ずいぶん、あちこちメモしていたもんだ。

9)ガタリについても、「グーグル・アマゾン化する社会」(森健 2006/09 光文社)、「自由の新たな空間」(フェリクス・ガタリ /アントニオ・ネグリ  2007/6 世界書院)、「『2050年』から環境をデザインする」(日本建築家協会 2007/10 彰国社)、「僕の叔父さん網野善彦」(中沢新一 2004/11 集英社)、「芸術とマルチチュード」(アントニオ・ネグリ 2007/05 月曜社)あたりにも、ちょろちょろと散見される。

10)1980年代には、やはりフランスの思想家でミッテラン大統領の補佐官も務めたジャック・アタリが「21世紀の歴史」(日本語版は作品社刊)という著書でノマドを論じました。 

 この本は「21世紀以降の世界がどうなっていくのかを、歴史書として振り返ってみる」という一風変わった趣向で書かれています。この中でアタリは、2050年ごろには政府や国家や民主主義が破壊され、市場原理によって統一された地球規模の「超帝国」というものが生まれてくると説明しています。 

 そしてこの超帝国を支配するのが、「超ノマド」といわれる人たち。だんだんSFみたいな話になっていますが、とても面白い内容なので、もう少し紹介してみましょう。 

 アタリによれば、ノマドという考えかたが生まれてきたのは20世紀末から21世紀初め---つまりは現在にアメリカの「中心都市」であるカリフォルニアで、ノートパソコンやケータイ、PDA、携帯音楽プレーヤーなどノマド的な生活をサポートする「ノマドオブジェ」が生み出されました。それらのノマドオブジェのもととなる半導体やマイクロプロセッサ、OS、インターネットなどのプラットフォームも、ほとんどがこのカリフォルニアから出現してきています。 

 これはもちろん、現在の話ですね。アタリはこのようにいま生まれてきているノマドが、超帝国の時代の新たな「遊牧民」となっていくと言います。 

 その中でも特別な存在が、超ノマド。(中略) 

 アタリは超ノマドをかなり自由奔放な人たちに描いていて、さらに彼はこう説明します。(中略) 

 そこまでボロクソに書かなくても、と思いますが、アタリはこういう超ノマド層の人たちが、世界的な戦争「超紛争」を巻き起こすと予言しています。 

 一方でこの超ノマドのなかから、環境問題や他者への気づかいなどに敏感な人たちが現れて、地球規模の民主主義の支持者になるそうです。それが「トランスヒューマン」と呼ばれる人たちで、彼らはいつか世界の「超民主主義」をになう人たちになっていくのだと言います。 

 超帝国に超ノマド、そして超民主主義。なんとも「超」のインフレ状態で不思議な未来像ですが、超ノマドになれない人たちはどうなるのでしょうか。

 アタリは、2040年になると、40億人の「定住民」として中産階級が現れると予測しています。つまり超ノマドのようにあちこちに移動しないで、一か所に定住して会社員的生活を送る人たちですね。これがいまの一般的な日本人にいちばん近い層ではないかと思いますが、しかしアタリは「彼らはノマドの再来に悩まされる」と不吉に予測します。

 ノマドの再来とは何でしょうか。(中略) 

 これが中産階級のなれの果ての「バーチャルノマド」だそうです。

 さらに下層階級があります。(中略)

 このようにいったんは「定住民」となったはずの中産階級は、「バーチャルノマド」や「下層ノマド」となって、再びノマド的な生活へとのみ込まれていくのです。

 なんとも陰鬱な暗黒の未来社会で、SFだと思って読めばこの「21世紀の歴史」という本はそれなりに面白いのですが、リアルな予測としては若干「?」という感があるのは否めません。ただ、あちこちに非常に鋭い論考がちりばめられていて、読んでいて非常に参考になります。p229「アタリが描いた『超ノマド』」

11)アタリについては、当ブログでは関連で若干触った程度でほとんどノーマーク。ただ、ここで気になるのはネグリ=ハートの、「<帝国>」と「マルチチュード」との対峙と、ここでアタリが語っている「超帝国」と「ノマド」の関係とは、どのような文脈で読まれるべきなのだろうか、ということ。

12)ジャック・アタリの考えたのノマドは、「国境を越えて移動していく人たち」というイメージです。未来の超帝国の時代になると、国の意味があまりなくなって、国や政府というのは一時的に滞在するノマドたちがくつろいだり、何かを消費したり、商売したりするために滞在するオアシスに過ぎなくなると彼は言います。p235「『物理的に移動し続ける生活』の終り」

13)国境を越えて移動している友人たちも多くなっており、情報や経済はまさにその通りになっている今日である。裸電球と真空管ラジオしかなかった私たち戦後っ子時代から、現在では、デジタルネイティブどころか、モバイルネイティブの時代になりつつある。

14)離れて暮らす孫たちに会うためには、年の何回か行ったり来たり、せいぜい電話で話す程度であったが、いまじゃぁ、毎朝スカイプでおはようと、顔を見ながら結構長い時間、無料で会話できる時代になっている。

15)業務上若い2~30代の人びとと付き合うことも多いが、部屋や自宅に固定電話がないのはごく普通になってきた。こちらも移動しているが、あちらも移動しているのである。昔は、どうしても会いたい時は玄関で待ち伏せなんてこともできたが、今じゃぁ、当人たちが参加しているSNSで、最近の動向をつかんでから、メールするなんてことが日常的になってきた。

16)この本、ノマド「ワーキング」だけを「すすめ」ているが、実際の私たちの生活は、すでにノマド・ライフ時代に突入しているのではないか。スマホ、タブレット、モバイルWiFi、LTEといったものが加速度をかける。そこにどんな可能性があるのか。そこにどんな脆弱性があるのか。

17)久しぶりにこの方の本をめくってみたが、なかなかおもしろかった。

<2>につづく

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