石川裕人作 シニア劇団「まんざら」公演 「つれづれ叛乱物語」
2013年5月3日 宮城野区文化センター パトナシアター
Vol.3 No.0977★★★★★
1)昨年10月に石川裕人が亡くなって、そのブログを見直してから、初めて彼が、60歳を超えた人びとのための演劇、シニア演劇の作品を手掛けていたことを知った。それはまるで、小学5~6年生のためのAZ9ジュニア・アクターズ公演と対をなす活動のように思えた。こちらも、チャンスがあったらぜひ見たいと思っていた。
2)先日図書館でチラシをもらって予約しておいた。震災後に新築なった区文化センターの会場は、開場前にすでに長蛇の列だった。これはこれで、ジュニアアクターズとは違った、シニアたちの熱気がむんむんしていた。最近定年退職した私たちの同級生も、ひょっこり見にきていた。
3)う~ん、いいねぇ。なかなかの名役者ぞろいである。そもそも老人施設「鶴仙荘」の、ど素人の老人たちが主人公である。素のままステージに立てば、それでいいのだ(と、思わせるところが憎い)、そんな自然体のスタートが、見ている同年輩の(というか私もすっかりそのお仲間いりしているのだが)共感をさそう。
4)ところで、この「鶴仙荘」という名前からは、ずっと昔、三越裏の連鎖街の小さな飲み屋さん「鶴仙(つるせん)」を思い出させる。石川とは何度か待ち合わせて、あの狭い店の中で飲んだものである。もう40年も近い前のことだ。
5)「つるせん」とばかり思っていたこの施設のネーミングだが、実は「かくせんそう」と読む。なるほど鶴は「かく」と読むから、鶴仙荘は「かくせんそう」と読めないことはない。もちろん、この辺は作者のアナグラムにおけるユーモアだろう。容易に「核戦争」を連想させる。
6)この施設に住む10人ほどの住人達が、老朽化した建物を立て直すという理由で退去を迫られるというところから、この物語は始まる。そのためには、住人達は、悪辣な経営者たちをギャフンと言わせるために、「一芝居」打つ、というストーリーである。芝居の中の芝居、つまりメタ芝居である。
7)このドラマツルギーのために、同年輩の(もちろん私も含まれている)観客たちは、一緒になって芝居を立ち上げよう、という気分になってくる。つまり、観客もまた、芝居に取り込まれているのだ。うまいな、と思う。
8)この芝居は再演である。この芝居はすでに13年前の2000年の4月に、この劇団の前身(?)である「Aging Attack!!(シルバー俳優養成企画)」で公演されていたものだ。今回、昨年亡くなった作者の追悼を兼ねて、再演されたものである。
9)この芝居を書いた時、作者は40代中ば、まだ自分ことをシルバーだとは思っていなかっただろう。自分が「シルバーのために」芝居を書いたとさえ、思っていたかもしれない。
10)しかしながら、今こうして我世代もアラ還となったタイミングでこの芝居を見た場合、実にまぁ、よくできているというか、芝居とはこういうもんだ、という、小気味いい割り切りを感じる。これはもう、作者を含めた私たちの世代の演劇である。
11)小学生時代の学芸会から、高校演劇部のハプニング劇、そして唐十郎や寺山修司たちの影響を受けたアングラ劇、その流れの中で、私なりに観劇してきた石川作品群であるが、その幅の広い作風に、今さらながら圧倒される。
12)この芝居、約1時間10分ほどの作品である。最初は、この時間、持つかな、と勝手に危ぶんでいたのだが、どうしてどうして、あっと言う間に時間が通り過ぎた。正直言って、あと30分は、この世界に浸っていたかったな。
13)この仕事のチームワークは、脚本を石川が書き、指導は細君の絵永けいが担当してきたとのこと。今回も、演出は絵永となっている。以前、その苦労話をちょっとだけ耳にしたことがある。たしかにその苦労も偲ばれるが、これだけの作品に仕上がるのであれば、その甲斐は十分あるものと思われる。
14)会場は、一種独特のシニアパワー(笑)であふれていて、なんとも言えず、舞い上がった空間になっていた。満席になった客席からも「面白かったね」の声が何回も聞こえた。そこにあるのは、芝居そのものというより、一種の同年輩同士の共同性であると思える。
15)それは、一生懸命やっている人への思いやりとかいうものではなく、ある仕掛けが、連鎖反応を起こして、会場全体に広がったような、波状的な拡大だった。ステージに登った人たちも、会場に引き寄せられた人たちも、してやられたな、という快感が伴う体験であったはずである。
16)この芝居、ことし6月に山梨県の南アルプス市で開催される「第2回全国シニア演劇大会」 にも参加するらしい。
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