「なとりの伝説と造物Ⅱ」 増田・舘腰編 氏家重男 <1>
「なとりの伝説と造物Ⅱ」 増田・舘腰編 <1>
氏家重男 1999/07 名取市郷土史研究会「ふれあい」 ハードカバー p179 巻末資料あり 名取図書館所蔵
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その昔、源義家が安部貞任を攻めたとき、樽水の大館より射た矢が上余田まで飛んで来て突き刺さった所を「矢塚」と呼び、矢が飛び越えた橋を「矢越の橋」と云うのだそうだ。
そこには合戦で義家に降伏した安部氏の一族が鎧や武器などを埋めた七ツの塚があり「七島」と云われたという。上余田の七島集落裏の水田の中に15メートル程の間隔で、七基の塚が東西に並んでいる。昔は円い塚だったが水田の耕作で次第に削られて、痩せた紡錘形になったのだという。
七ツの塚は戦後まで存在したが、国道4号線のバイパス工事で二基が姿を消し、その後一基が住宅建設で崩壊したと里人が話す。七ツの塚の西端の塚に観音様が祀られ「七島観音」といわれる。
現在、周辺一体は宅地開発が行なわれて残りの塚も消滅してしまったが、数年前に名取市教育委員会が七島の発掘調査を行った。その結果は伝説の鎧や武器を埋蔵した跡は認められなかったが、古墳時代末期頃の円墳と考えられる遺跡が発掘された。
名取郡内には「前九年の役」や「後三年の役」で戦場になったとする伝説の場所が数多く残っているが、上余田の七島は前九年の役や後三年の役とは関係がなさそうである。p91「矢越の橋と七島の伝説」
この話は、私が20代の頃、隣のお婆さんに聞いた話とほとんど同じか、著者もまた、このお婆さんから聞いたものと思われる。ただ、当時はすでに紡錘形になっていたので、運搬用の木船をかぶせて逃亡した、という説にそれなりの説得力があった。
しかし、飯沼勇義の一連の本を読んで、なるほど、あれは円墳であったか、と思い直していた。これに似た塚は、名取一体、下余田や四郎丸、あるいは小塚原(その名もそのままだ)などと、同列のモノかと推測できる。
矢を飛ばしたのは、同じ方向ではあるが、高館の山の上から、ということになっていた。高さは1m2~30センチもあったのだろうか。4~5歳の頃に、兄弟と遊んだ記憶がある。七つの塚はそれぞれに田んぼを区切る畦畔(けいはん)の一部となっていた。なるほど、もともとは円い円錐だったが、だんだん舟をかぶせたような細長いものになってしまった、という話もうなづける。
ここで、この塚が七つの島と呼ばれていることに、この周辺が湿地帯であって、移動に木舟を使っていた、というイメージと繋がるところがある。
20代初半の私がこの話を聞いた時のメモがどこかに残っているはずだが、どうも、この前九年の役、後三年の役、と、安部一族の話が、うまく繋がっているようでもあり、どこかつぎはぎのようでもあるような気がしていた。
以前、「上余田の七島は前九年の役や後三年の役とは関係がなさそうである」という文章を読んで、ちょっと残念な気がしたが、今回あらためてこの書を開いて、むしろ、これは面白いな、という気がした。
前九年の役(1051~1062年)、後三年の役(1083~1087年)に比較して、「古墳時代末期頃の円墳と考えられる遺跡」とすれば、これは、さらに3~400年古い遺跡ということになるだろう。
ひょっとすると、飯沼勇義史観いうところの690年頃の「仙台沿岸津波」あたりと、ダブってくる可能性がある。少なくともその時の津波ではこの塚は煙滅しなかったということになる。
ところで、今回この著者の名前を読んで、ひょっとすると思うところがある。1976年頃、自宅でひとり留守番している時に、地元の郷土史家が訪ねてきて、家神様について聞かれたことがあった。あの時の人が確か閖上の「氏家」さんだった。同一人物である可能性があるかも知れない。
あの時、名刺をもらったのだが、この人の名刺は、名刺大に切った和紙にゴムスタンプで名前を押したものだった。氏家さん、という名前は覚えているのだが、その下を良く覚えていないのは、実は、この名刺、話しているうちに、机の上のお茶がこぼれて、滲んでしまい、名前や住所が見えなくなってしまったからだった。
何百年も、千年も昔のことを調べている人が、自分の名前は、わずか数時間で消えてしま うような名刺を使っているのか、と、客人が帰られたあと、ひとり大笑いしたことがあった。
失礼ながら、そんなことを思い出した。別人であれば、ごめんなさい。
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