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2014/01/01

日高見国を訪ねて 「北上川散歩」鈴木 文男<1>

Kitasan  
「北上川散歩」日高見国を訪ねて <1>
鈴木文男 1991/05 あづま書房 新書版 p153
Total No.3156

 この本も永い間、枕元にありながら積ん読になってしまい、一度は天井ロフトに御蔵入りしてしまった一冊。小さい、コンパクトな新書だが、内容は鋭く、深い。

 どうしてこれだけインパクトがあるのだろう、と考えた。それは、たぶん、ご本人が東北人であり(つまりヒタカミ人)であり、実際に自分の足で「散歩」しながら書かれ本だからであろう、という結論に達した。

 この本もまた、1991年のスピリット・オブ・プレイスの準備のために稼集した一冊である。ホントにあの時は、仕事をぶん投げて、一年間、よく勉強したものだ。

 あの時、たくさんの本を読んだが、もしあの時、キミの基調意見はどんなものなのか、と問われたなら、この小さな新書一冊を提示するだけで、足りたのではなかっただろうか。

 でも、当時の私はそこまで理解がすすんでいなかった。今にしてようやく、この本があり、このようにして、すでに20数年前に書かれていたのだ、ということに感動するだけだ。

 もしこの本で残念だとするならば、この本で言われるところの「北上川」流域に、私は住んでいないことだ。また、その人々の、本当の意識とは、すこしずれた位置にある。

 たしかに、1988年の春に、北上川流域にコミューンの可能性を見つけて、家族ともども、住所を移して移住計画を実行したことがある。しかし、ここまでは理解できていなかった。

 もしあそこにキチンと移住出来て、この本に出会っていたら、私は、あのシンポジウムに参加する機会はなかっただろうし、また、参加する必要もなかったのではないか、とさえ思う。

 あの移住が成功しなかったからこそ、その代案としてのかのシンポジウムのスタッフとして参加したのではなかっただろうか。

 3・11後、「宮沢賢治祈りのことば」 悲しみから這い上がる希望の力(石寒太 2011/12 実業之日本社)を読んで、とても感動した。何度も読み直した。しかし、そもそも、それは3・11後に書かれたからなのであって、3・11以前に読むとしたら、こちらの「北上川散歩」のほうが数段すぐれていたのではないだろうか、こちらのほうが、より賢治を積極的に、普遍的に理解しているようにさえ感じる。

 汚い川のためにダンスをしたり、詩を読んだり、そして音楽を演奏したりもするんです。ちょっとしたことでいいんですよ。こういう活動をアーバン・バイオリージョナリズムと言いますが、いまアーバン・バイオリージョナリズムはたいへん活発です。ゲーリー・スナイダー「聖なる地球のつどいかな」 p121「バイオリージョナリズム---流域の思想

 アーバン・バイオリージョナリズム 生態地域主義(生命地域主義)は、行政的に分割された「地域」ではなく、生態系を基礎として分割されたバイオリージョン(生態地域/生命地域)を生活の中心に据えることを提唱する。このような意味では、都市もひとつのバイオリージョンであると見ることができる。p121同上注

 ここで山尾三省との対談で語っているスナイダーの思想そのものが、この「北上川散歩」に表出されていると、感じる。

 そして、残念なことに、私は、北上川流域には住んでいない。私には、私のバイオリージョンを感知する能力が必要なのである。

 1991年11月のスピリット・オブ・プレイスは、日本経済バブルの最後っ屁のタイミングであったし、建築業界からの多大な資金提供があった。また、アメリカ人の提唱者を迎えるということもあったし、仙台周辺のユース・カルチャーの総結集という意味もあった。

 だから、一概に評価し、総括することはできないが、少なくとも、1991年と、今年2014年におけるミッシングリンクを探ろうとするならば、まずは、1991年のこの「北上川散歩」をピックアップすることは可能だろう。あるいは、他の本には代えることのできない、貴重な価値をこの本は持っている。

 今日一月元旦、石巻市桃生町太田の、日高見神社に初もうでしてきた私は、つよくそう思うのである。正月そうそう、今年最初のレインボー評価の一冊だ。

<2>につづく

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