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2014/02/20

日吉 眞夫 「常葉御前のこと」

「常葉御前のこと」
日吉 眞夫 (著) 2007/10 五曜書房 単行本: 238ページ
Total No.3184★★★☆☆

 何かのおりに山尾三省が屋久島にいくきっかけの一つになったのが日吉眞夫(ひよしまさお)であったことがわかった。彼について調べればいろいろわかるだろう、とタカをくくっていたが、その情報は割とすくない。最初のきっかけをメモし忘れた。

 前著である「屋久島―日常としての旅路」(2005/08麗沢大学出版会)には、山尾三省についてのまとまった章があるので、彼らの間に関係があったことは間違いはない。その経緯をもっと知りたいなと思って探したこちらの本だったが、ほとんど公立図書館には入っていない。こちらは常葉御前や平重盛といった歴史人物に関係がある地域の図書館から遠く転送されてきた一冊である。

 「あれはいかに?」
 源氏の兵どもが見守っていると、舟の中から、表は白く裏が青い柳襲の五衣で正装し真っ赤な袴を着けた年の頃十八、九のまことに雅やかに美しい女官が、深紅の扇を舟べりに差し立てて、陸に向かって手招きをしたのである。紅の扇には金の日輪が描かれていた。

 なんという場面だろうか。

 これが互いに射合い、斬り合い、組み打ち、相手の生首を掻っ切って奪おうとする戦いの、その真っ只中に現出した一こまの情景なのである。p15「弓矢の話」

 ぎょっとするような、あざかやなシーンである。おそらく国史や歴史小説の世界に通じている人々にとっては、ごくごく代表的な場面であるだろうが、この場面を、日吉眞夫と云う人が、敢えて一冊の本まで作って残した、というところに、何事かあらん、と好奇心をかきたてられる。

千人の美女から
選び抜かれた美少女
常葉---。
源義朝に愛され、
二十三歳の若さで
義経ら、三兄弟の
母であった彼女が
敵将の女
となったのはなぜか。
美しくも哀しい
平治物語の世界を描く 
カバー腰巻より

 常葉御前と言われても、ピンとこない向きには、牛若丸の母、とくれば、ははん、となるだろう。ここまで来ると、当ブログとのリンクがすこしづつ出来てくる。しかし、後半の「平重盛という人物」という文章となると、当ブログとしては、どうリンクを張ればいいか、苦慮することになる。

 源義経→平泉文化→東北日高見文明→縄文あたりまでの故事付けはできるが、逆ベクトルとして、源義経→常葉御前→平重盛の流れは、なんとか皮一枚で繋がるだけである。もっとも、日本一周のヒッチハイクの旅をした10代のおり、宮島の厳島神社が、いたく心に残っているので、私個人としては、どこかにリンクが内在しているかもしれない。

 著者、日吉眞夫は2008年11月20日に亡くなったとのことである。とすると、2007/09に出版されたこの本は、著者最晩年の作と考えてもいいだろうし、生涯の心境と受け取ってもいいのかも知れない。

 モノトーンの表紙ながら、本文はアート紙を使った、実に丁寧な一冊である。東大を出て、サントリーの広告を担当したこともある著者である。実に鮮やかで、鮮烈なイメージを遺す一冊である。

 舟の中から、表は白く裏が青い柳襲の五衣で正装し真っ赤な袴を着けた年の頃十八、九のまことに雅やかに美しい女官が、深紅の扇を舟べりに差し立てて、陸に向かって手招きをしたのである。紅の扇には金の日輪が描かれていた。p15「弓矢の話」

 実に鮮やかである。著者、日吉眞夫が最後に残したこの一冊は、まさに「紅の扇の、金の日輪」に匹敵するかのような印象を残す。

 「あれはどういうことか」
 「射よ、ということでございましょう。・・」
 p16「弓矢の話」

 屋久島に身を引いた著者の、最後に差しだした、紅の扇の、金の日輪を、撃ち落とせるだけの名手はどれだけいることだろう。

 物語の時代から八百年を隔てて、同じ国土の上ながら、環境も生産消費の構造も世の仕組みも異なる社会にわたしたちは住んでいる。それらのちがいを衣装として剥ぎ取ってしまえば、生身の人間が、それぞれの時代に与えられた条件を利用しながらさまざまな葛藤の中で生きていることが見え、八百年や千年で人間の本性は変化しないことが分かる。

 ただ死生観のようなことになると、文化の産物だから、時代によって異なる。

 往時は、死をそのものとしては恐れず、命より大事な価値のために、それを守って死んでいった人たちが少なからずいたということを、いま、この時代は、あらためて深く考えてみる必要があるように思えてならないのである。 p237「平重盛という人物」

 この本の結句である。

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