「タイプライター」 <捨てるに捨てられないモノ>シリーズその6
シリーズ<捨てるに捨てられないモノ>
その6 タイプライター
最近じゃタイプライターなど見向きもされなければ、話題にする人もない。今やワープロの時代なのである。かつてはワープロ専用機なんていう特殊な機能を特化させた時代もあったが、現在ではパーソナルコンピュータのごくあたりまえの一機能として、特に意識されることもなく使われている。
だが、1980年前後に、実際に海外と英文で連絡を取らなくてはならなくなると、タイプライターは不可欠な事務用品だった。タッチタイピングなんてできなかったけれど、タイプライターを叩いて文書を作ることが、とにかくかっこよかった。
しかし良く考えてみる。あの当時、便せん一枚とて、無修正でタイプを打てたことなどなかった。かならず修正が必要なのである。ホワイトとか修正テープとかで、なんだか継ぎ接ぎだらけのレターだった。
瞑想センターで実用で使ったものだから、レトロでも高機能でもなかった。今、この機種をネットオークションにかけても、五百円とか千円とかしか値がつかない。値がつくだけまだマシかもしれない。実際には買い手はほとんどいないだろう。
この英文タイプライターは、捨てようと思えば捨てることは可能であるが、ある時、地元の美術館の中のカフェで、同機種がインテリアとして使われているのを見て、おお、こういう使い方があるか、とその再利用のチャンスを待っているところである。
本当に捨てるに捨てられないのは、和文タイプライターのほうである。英文タイプライターを所持している家庭はまだたくさんあるだろうが、和文タイプライターを所持している家庭となれば、そうはないだろう。
これは会報とか作るために買ったもの。たしか当時で10万円くらいしたように思う。予備の鉛活字も揃っているのだ。これは捨てられない。当時、日本語ワープロ専用機が出ようとしていた直前であったが、ワープロ自体は、まだようやく100万円を切ろうとしていた段階だった。
私はこの和文タイプライターを買う時、本当は、写植機、つまり写真植字機が欲しかったのだ。写研とかモリサワなんていうメーカーの名前を聞くと、ゾクゾクした。中古でも百万以上もした。写植機を買ってもビジネスに活用できなかったので、買うことはしなかったが、イメージとしては、この和文タイプライターを買った時、自分では、写植機を買ったような気分でいたのだ。
知人では、実際に中古の写植機を購入し、自宅アパートで仕事を始めた者もいたし、いわゆる写植屋さんとして、成功した友人もいた。私の中では当時の華やかなビジネススタイルに見えて、うらやましかった。
だが、この写植の世界は、やがて廃れる。借財を残して倒産した知人もいる。あの時、私も無理して写植機などを購入していたら、その後大変な想いをしたかもしれない。10万でも高かったけど、せいぜい和文タイプライターでガマンしておいて良かったな、と今は思う。
和文タイプは、ガサも大きいし、インテリアにもならない。文字盤などをひっくり返せば、目も当てられない。鉛の活字を元の状態に戻すまで、一週間も要するかもしれない。でもやっぱり、この和文タイプを眺めていると、いろいろな想い出が湧いてくるので、捨てられない。遺品整理屋さんも、ちょっと困るだろうな。
追伸
この和文タイプと同機種が使われたのが、森永グリコ事件の脅迫状。未解決な事件だけに、この和文タイプを所持している、なんてことは、本当は不用意に公表してはいけないんだった(爆笑)。
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コメント
スミイさん
お問合せありがとうございます。
手元にあるカタログ類をアップしておきました。
http://terran108.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post.html
参考にしてください。
投稿: Bhavesh | 2017/04/12 10:16
こんにちは、以前の記事にコメント失礼します。和文タイプライターに最近なぜか突然興味が湧きまして、色々と調べているうちにこちらのブログにたどり着きました。広島市内在住の現在44歳で、もちろん使ったことも見たこともないのですが、ぜひ使いたいと思って中古の機械を探しています。お店のチラシ作成に使用できればいいなと思っています
大変失礼なご質問かと思いますが、もしブログ主様がお使いでなければお譲りいただくことは可能でしょうか?
突然の書き込み失礼いたしました。
住居 尚
投稿: スミイ | 2017/04/10 11:15