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2014/05/07

「日本タンポポ」 <捨てるに捨てられないモノ>シリーズその9

<8>からつづく

シリーズ<捨てるに捨てられないモノ>
その9 日本タンポポ

 我が家には、お宝と言われるべきものは殆ど何もない。基本、金融業の末端に連なる当オフィスには、かつては現金などもあったが、今やキャッスレスの時代である。モノとして盗まれて困るようなものは何もないのである。

 そろそろ老境に入った私たちも、テレビ番組にさそわれるようにして、お互いの死や葬儀のことを語りあうことがある。お互いの希望を聞きあうのだ。シンプルを旨として生きてきた私たちに、なにほどの遺産もないし、子孫への遺産分割用の遺言も、おそらく必要ないだろう。

 でも、私には、自分の死後、大事にして欲しいというものもないわけではない。それはほとんどたった一つと言っていいくらいで、それを、子孫が保管できなければ、それを大事に思う人に譲ってほしいと、伝言はしてある。

 そして、奥さんは、と聞くと、奥さんもほとんどない。葬式さえいらないと云いだすので、それでは困ると、こちらはやんわり拒否している。その割には、自分用として、互助会に加入して、しっかり葬儀資金を積み立てているところは、いかにも彼女らしい。

 その彼女が、ほぼたった一つ、彼女の死後も大事にしてほしい、と願っているのが、この日本タンポポである。ふ~~ん、そんなものか。それはお安い御用だな、とは思うのだが、本当にそれができるかどうかは、実はよく分かっていない。

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 このタンポポは、フクシマからほど近い彼女の生地を流れる阿武隈川の土手から、我が家に移植されたものだ。かれこれ30年ほど前になるだろうか。見かけはただのタンポポである。

 決して広からぬ我が家の庭にちょこちょこ顔出す分には別に私は気にかけないのだが、これが、我が手作りオフィスの入り口のブロックの割れ目に、毎年咲いてくるとなると、本当のところ、私の心境は複雑だ。

 正直言って、なんだペンペン草だらけの事務所じゃないか、と思われるのもなんだから、これまで何度も何度もむしり取ったのだ。その時はなくなったように思うが、春になるとまた元気に咲いてくる。どうやら地下茎が深く根付いているのだろう。

 日本タンポポと名前がついているということは、他にも種類があり、私たちが日常見ているのは、ほとんどが西洋タンポポ。いつ頃か入ってきた外来種であるという。在来種である日本タンポポは、絶滅危惧種とはまではいかないが、次第にその生殖地が狭められている。

 私の簡単な見分けかたは、黄色いタンポポか、白いタンポポか、ってところだが、花の下の花弁が、下に向いているのが西洋タンポポで、上を向いたままのが日本タンポポのようだ。その他のにも種類があるだろうが、とにかく我が家のは白い。

 彼女は、他にも何種類かの植物を我が家の庭に持ち込んでいて、それとなく年月がたつと、近隣にも種が飛んで増殖していっている植物はあるらしいが、この日本タンポポだけは、どうやら我が家の庭に留まっているようだ。

 アルカリ性や酸性などの土壌にもよるらしいし、私なんぞはDNA的に雑種化して排撃されていっているのかな、と思ったりするが、定かではない。いずれにせよ、西洋タンポポが大手を振って歩いており、日本タンポポは静かに人知れず咲いていて、いずれは絶滅危惧種にもなりかねないような、淡い存在であるらしい。

 となりのマンションに出入りしている庭師などは、マンションの周辺に雑草防止に弱い除草剤をまいたりする時があるが、できれば、親切心なんかで、我が手作りオフィスの入り口まで除草剤などをまかないでほしい、と思う。これは雑草ではないのです。すくなくとも、うちの奥さんにとっては。

 この花を思う時、なんだかうちの奥さんの象徴にも思えたりしてくる。彼女の葬儀の時には、「彼女は、日本タンポポのような人でした」なんて喪主挨拶したりしたら参列者に感動してもらえるかな、なんて1人で、ほくそ笑んだりする。しかしまぁ、こちらが先に逝っちゃえば、その機会はなくなるのであるが(笑)。

 いずれにせよ、ああ、めんどくさい、じゃまになる、なんて短気をおこしてむしり取ったりしないで、我がオフィスの日本タンポポは、彼女の身代わりと思って大事にすることにしよう。温室にいれたり、水をやったりという風に大事にする、というほどでもないが、ごく当たり前においておいたら、ごく自然に毎年花を楽しませてくれる、肩のこらない花である。 

<10>につづく

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