「セツ学校と不良少年少女たち」 セツ・モードセミナー物語 三宅菊子
「セツ学校と不良少年少女たち」 セツ・モードセミナー物語
三宅菊子1985/01 じゃこめてい出版 単行本: 236ページ
Total No.3269★★★★★
長沢節とセツ・モードセミナーについて
息をのむファッションドゥローイング、洗練された水彩風景画、厳しい美意識と鋭い感性に織られたエッセイ、正統でありながらユニークなおしゃれセンス、全的自由への限りない希求と批評精神、体制的風俗への挑戦、人を魅きつけてやまないナイーヴな表情、スリリングなストイシズム---実に多彩な顔を持つ当代の異才である。
1917年、福島県会津若松市生まれ。文化学院大学部美術科卒。在学中から画才を顕し、日本水彩画会展に出品、2年後に会員に推挙される。新政策派展で新作家章を受章。戦後は新分野のファッションイラストレーションに歴史的な新生面を拓き、現在まで第一人者として活躍。
1954年に現在のセツ・モードセミナーの前身となった「長沢節スタイル画教室」を開設。「何年も続けるつもりはなかった」小さな教室は、その後、幾多の創造的な仕事にたずさわる人たちを輩出してきた。
出身者には、穂積和夫、河原津、金子功、山本耀司、花井幸子、ユミ・シャロー、くろすとしゆき、浜野安宏、星信郎、松永タカコ、吉田ヒロミ、川久保玲、大野ノコ、大西洋介、ベーター・佐藤、トミー・リー、上迫美恵子、堀切ミロ、川村都、岩崎トヨコ、秋山勝貴、池田和弘、峰岸達、柳生弦一郎、上野紀子、永井博、飯野和弘、島本美和子、加藤裕将、早川タケジ、本くに子、上田三根子、吉本由美、阿部かずお、金子国義、四谷シモン、石川三千子、中本潔、コヨセジュンジ、村上一昭、などなど。
その活動の場は、イラストレーション、ファッション、マスコミ、広告、ジャーナリズム、実業その他と多種多様。海外での評価が高い出身者が多いのも特色のひとつだろう。長沢節も毎年のように渡欧する国際人である。
著書に「デッサン・ド・モード」 「わたしの水彩」 「大人の女が美しい」他。裏表紙より
表紙、裏表紙、を読んだだけでは、この本の中に何が書いてあるのかは、わかりにくい。私のような通りすがりの一見さんには、全く意味不明の一冊、となりかねない。この本も、「電脳・風月堂」の中の、「Large Beer」と「Can Beer」という参考資料リストの中から、60年代的、新宿・風月堂の消息を尋ねて作っておいた、「電脳・風月堂 関連リスト」の中の一冊。
この本を理解するには、三つの段階の理解が必要だ。まず、1917年生まれの長沢節という異才を放ったリーダーついて、そしてその元に集まった門下生たちについて。さらには、その門下生たちの各分野における活躍について、ということになる。
当ブログとしては、この本の中に「風月堂」の文字を見つければ、それで探索は終りなのだが、今回はそう行かなくなった。まず、先日アップした長本光男「みんな八百屋になーれ」 就職しないで生きるには 3(1982/07 晶文社)のあのとても魅力的な表紙の絵は、なんと、このセツ・モードデザインセミナーの出身者・柳生弦一郎である、ということを知ったからである。
そして続いて、その情報をもたらしてくれたのが、このナモ商会のそもそものビルを借りる手はずをして、70年代から80年代にかけての西荻若者文化を「繁栄」させた「ほびっと村」。その基礎となった「ジャムハウス」主人夫婦の川内たみさんもまた、このセツ・モードセミナーに学び、その柳生弦一郎氏との同期生であった、という。ああ、なんというつながりだろう。
その他の出身者の顔ぶれもすごい。「浜野商品研究所」の浜野安宏、人形作家の四谷シモン、本文の中にはミュージカル「ミスター・スリム・カンパニー」の深水新作、などの名前もでてくる。ありゃぁ、これは一体なんなんだ。
p20
現在の、ってことだから、これはこの本が出版された1984~85年当時の風景だろう。こういう建物の学校で、組織としては、株式会社なので、学校法人などではなく、そもそもが入学式も卒業式も卒業証書もないセミナーだったようだ。いや2年が一応の年限なのだが、セツ氏からOKがない限り、卒業そのものがない、という、実にユニークな組織なのだ。
p31
この人が長沢節。高樹町時代とは、いつの年代のことなのだろう。推定では60年安保前後のことである。スタイルもそうだが、本書の文面からすると、独身だったようなのだが、どこかホモセクシャルな雰囲気もないではない。
ところでこの本における、不良少年少女、とはどういう意味なのだろう。
長沢先生に、よく言われました。お前は不良だって。学校にあまり来ないし、好きなことやってるし。不良ったって大したことやってるわけでもなかったんだけれど・・・・先生は不良が好きなんだって。
ディスコ行ったり、新宿あたりでモダンジャスきいたり、そんな程度ですよ。先生が一度オレも行きたいって言うんで一緒に行って----私たちその頃まだ若いから、警察の手入れとかあるとダメなわけ。昔だからねぇ、未成年がお酒飲んじゃいけないのよ。警察の人がくると先生ワイワイ面白がったりして。
先生の不良って、独特の言い回しなのよね。お前は不良だって言われるの、嬉しかった。それとあの頃、細かったから。私、細さでトクしてました。p138大野ノコ「『不良学』は底の深い学問なのだ」
まぁ、この程度の不良のことではあるが、言わんとするところはわかる。さて、「電脳・不月堂」において、風月堂に言及している本としてピックアップされているこの本の、どこにその痕跡があるだろうか。
新宿に”きーよ”というジャズ喫茶兼飲み屋があった。風月堂という、不良外人やヒッピーの集まる喫茶店があった。浜野クンやお岩はそこの常連で、セツでもかなり不良の方だった。
ところが浜野安宏という人物は、当時から「次に流行するものを嗅ぎわける」感覚と不思議な商才に長けていた。クリエーターのグループを作り、会社組織にまで持って行ったのがまだ学生のとき。浜野商品研究所のスタートは1965年だった。p86「”全ブス連”は時代と共に生き、踊った」
私がこの本の中から見つけた「風月堂」の文字はこれだけである。セツ・モードセミナーに集まる「不良少年少女」たちに、さらに「かなり不良の方」と名指しされたのは浜野安宏であり、風月堂は、まさに彼ら以上の「不良」の巣窟のようなイメージが作られている(笑)
さて、ここまで来るとあとは「みんな八百屋になーれ」の表紙絵を描いた人の探索となる。
セツ出身どうしの結婚はたいていうまく行って、永続きしているカップルが多いのだそうだ。
柳生弦一郎・まち子夫妻がその代表例。柳生さんたちのときは、星教頭先生が仲人だった。星先生も独身主義で、ヨソの女の人をわざわざ奥さん役に仕立てて名古屋での式に臨んだ。p177「独身主義者演出の結婚披露パーティ」
「セツも長沢節も、おれにはなんだかわからん部分だね。長沢先生はわからないから怖いよ」と柳生弦一郎さんは呟いていたけど、私もやや同感。
ところで柳生さんは、世の中の流れだのイラスト界の流行だのには背中を向けて、鼻の穴や足の裏の絵本を創り、世間に対してはちょっと仙人風に暮らしている。
よく、セツ出は世ワタリが下手だ、と苦笑する卒業生もいてそれにも私はやや同感するのですが、柳生さんも多分そういう一人だ。が、別の見方では、仙人でもヘソ曲がりでも、自分の好きなようにやって行く数少ない一人なのだし、そこが彼のかっこよさだ。p181「感応する日々」
くだんの絵師についての消息はこの程度だが、このセツ・モードセミナーの中にあっても、このような位置にあるのが柳生弦一郎という人の存在である。
この本、この他にも、面白そうなネタ満載で、突っ込みどころは数限りなくある。ただ、空間軸はともかく、時間軸が一定でない。この本が書かれたのは1984年暮れのことだが、1917(大正6)年生まれの長沢節の人生をおっかけ始めたら、戦前まで遡らなければならない。少なくとも50年代から80年代までのことが、まぜこぜに書いてあり、なんとも不思議な世界観を作っている一冊である。
TBSに”ヤング720(セブンツーオー)”という番組があって彼女たち(全ブス連)はそのほとんどレギュラーで、横尾(忠則)さんや浜野安宏や加藤和彦がブレーン・・・というより家来みたいに彼女たちを持ち上げて、”11PM"でも気勢を上げたしクイズなんかにも引っぱりダコ、もちろん女性自身や週刊女性など女性誌にも登場して、全国から「全ブス連に加盟したい」という本気の申し込みが続々と殺到したりした。p85「全ブス連」
というあたりは、東北の中学生だった私なんぞが、ようやくアクセスできるポイントである。1966年のヤング720で横尾忠則がLSDについて語っていたのを、登校前の朝ごはんをかっ込みながら見ていたのが中一の私だった。
おそらく、この全ブス連あたりが、あの「みゆき族」あたりとなんらかの繋がりを持ってくるのだ。67年からのフーテン騒動、68年からのゼンガクレンの登場など、その前の出来事である。64年に登場して一年ほどして消えたとされる「みゆき族」については、この本では何度もでてくる。はぁ、1985年になっても、「みゆき族」という言葉が生きていたのか、と呆れるばかりである(笑)。
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