「かもめのジョナサン 完成版」 リチャード・バック <7>
「かもめのジョナサン完成版」 <7>
リチャード・バック (著), 五木 寛之 (翻訳) 2014/06 新潮社単行本 170ページ
Total No.3283★★★★☆
1)他の用事をしていた時、NHKテレビのニュースで、かつてのベストセラーがおよそ40年ぶりに完結し出版されました、と言っていた。そのアナウンスを片耳で聞いて、画面を見る前に、あ、それは「かもめのジョナサン」だろう、と直感的に思った。それは、なぜだったのだろう。
2)小説出版のニュースはそれほど多くない。何か賞を取ったとか、せいぜい村上春樹が新刊を出した、というような内容で、普段はあまり興味を持たない。だが、直感的に、ジョナサンを連想した、ということは、どこかに、私も、この小説にいくばくかのこだわりを持っていた、ということになる。
3)出版アナウンスでは、二年前に飛行機事故で重傷を負ったリチャード・バックが、過去の作品を見直して、封印していた第四部を今回付け足して、The New Complete Edition として再刊することにした、となっている。
4)本を読むと、巻頭にリチャード・バックが書いており、実際は、当時書いたけど出版すべきではないとそのままになってしまい、その存在すら忘れてしまっていたようだ。そして、くしゃくしゃになって、タイプの文字も消えかかっていた原稿を、最近になって妻が発見し、再読してみて、作家本人が出版することを決意した、ということになっている。
5)巻末では、五木寛之が解説している。前作の「不完全版」における解説も不評だったらしく、だいぶ批判された、と書いている。それはそうだろうと思う。
6)今回も翻訳となっているが、原作を二人の翻訳家に原訳させて、さらにそこから五木が<創訳>したとのことである。たしかに、原作は楽譜であり、翻訳は演奏であるとしたら、たしかに日本版は別物となってしかるべきだろうが、私なら、楽譜「かもめのジョナサン」の演奏家として、五木は選ばない。
7)解説で、法然や親鸞がでてくるのは、ナマな日本人としての現在の五木の偽ざる本心だろう。だが、どうも、「かもめのジョナサン」の軽さとは、相容れない不協和音が、またまたでてしまっているのではないだろうか。
8)翻訳者が<創訳>と言っているかぎり、原文からは離れてしまっている可能性は大きい。この小説に関心を持っていて、なおかつ英語力がある読者は、これはとにかく英語版を読むべきだろう。
9)そもそも、もともとの英語の「Jonathan Livingston Seagull」は、著者の紹介も、解説者の余分な文章もない、シンプルな物語として出版されている。売れ出すまでに数年かかっているのだ。それなのに、日本では最初から「売らんかな」の姿勢で、必ずしも「翻訳家」ではない五木の名前を借りて売りだそうとしたところに、どうも最初から邪心が入っているように感じる。
10)さて、今回、問題の第四章を読んでみたところ、たしかに、これはこれでいいのではないか、と思う。第三章で終わってしまっては、確かに尻切れトンボのようなイメージがないわけではない。しかし、あれはあれで、その尻切れトンボの魅力があったことも確かなのだ。
11)どこかのニュースで言っていたように、現代社会を批判するための第四章、という解釈もあるようだが、それは可笑しいだろう。仮に、40年前に、現代社会を批判していたとして、その作家もまた、40年もこの社会で生きてきたのだ。自分だけが正義漢ぶって、現代社会などを批判できるはずがない。それは欺瞞だろう。
12)第四章は、あってもいいが、なくてもいい。もっというなら、私なんぞは、第三章も、第二章も要らないと思う。第一章だけで十分じゃないか。というのも、当ブログとしては、小説の完成度など問題になどしていないからだ。小説に「完成」などあるのかないのかしらないが、すくなくとも、いい小説が書けたからと言って、いい人生をおくれたとは、いえない筈だ。小説など書かなくたって、完成などしなくたって、いい人生はいい人生だ。
12)小説というコンテナがあり、ストーリーとしてのコンテンツがあったとしても、そこから更なるコンシャスネスへと繋がっていくとするならば、コンテナも、コンテンツも、不十分で構わないのだ。あるいは、すべてのコンテナ、コンテンツは、不完全なのだ。だからこそ、人は、コンシャスネスへと向かうことになる。向かわざるを得ないのだ。
13)ここのところを読まなければ、そもそも「かもめのジョナサン」など、私は読む必要などない。
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