「新宿考現学」 深作光貞 1968<2>
「新宿考現学」 <2>
深作光貞
1968/09 角川書店 単行本 244ページ
★★★★★
1)この本は図書館の資料というだけではなく、ネットワークを通じて他県の図書館より転送されてきたものである。延長して手元に置きたいが、そうもいかない。図書館の司書さんたちの手を煩わせてばかりでも恐縮するので、今後、そうそう早期に再読、という訳にはいかないだろう。
2)そう思って返却期限間近で、またまためくってみた。よく見ると、口絵の一番最初の画像には、確かに「セツゲリラ展」と明記してあるようだ。まずは、新宿の真ん中にこのような形で、新しくも異質な文化が芽吹き始めていたのが60年代というものであろう。
3)マスコミは一夏かけてこぞって、このフーテンの性格づけ、輪郭づくりをしようとしたが、結局は徒労に終わった。なぜならフーテンには、アメリカのビート族やヒッピー族のように、反社会的行動や既成モラルへの破壊意識などの実体が、ありそうにみえて実際はなかったからである。つまり彼らは、一種のものぐさ太郎にすぎず、内容がなにもなかったのである。もう一ついえば、あったのは現象だけだったということになる。p124「新宿族の生態」
4)著者がこのような「ソーカツ」をしてしまっているのは早計であろう。著者が学者であり、すでに中年であったことを考えると、外国暮らしの生活から、新宿の新しい芽ぶきに注目はしたものの、本当の意味での胎動を、キチンと把握するには時間がまだまだ必要だった、ということになる。
5)ところで、パラパラと読み進めていくと、また193ページあたりにポスター店の内部らしき画像がでてくる。
「イルミナシオン」の看板があり、「セツゲリラ展」のポスターが複数見える。「イルミナシオン」は1967年頃から、伝説のアルトサックス奏者フリージャズの阿部薫が参加していた店らしく、そのネーミングは、フーゲツのJUNがしたらしい(本人の弁)。セツゲリラの一期生(?)には、当ブログにもコメントをもらった川内たみさんも選ばれていたらしい。
6)川内さんは、1976年に西荻窪にできた「ホビット村」の成立の根本に関わる方だから、67年の新宿の若者のエネルギーの勃興が、見事に継続し、発展していることになる。実体がないとか、思想がないとか、さまざまに言われた当時の新宿の若者文化だが、それは単に始まったばかりだからそう見えただけで、1970年代から21世紀を超えて、今日までの系譜を見れば、それは、実体も、思想もある、文化や芸術の一大潮流の始まりだった、ということが分かる。
7)その常連たちの新陳代謝の激しさは、たとえば喫茶店風月堂だけをみても、しばらく行かないでいるとここの客の顔ぶれががらりと変わっていることでもわかる。その変わりかたにも特徴がある。
5、6月ごろから夏の終わりまで新しい顔がつぎつぎと押しよせてきて、秋になると一応定着する。それが冬になるとぼろぼろ欠けていき、新宿族になりきった者だけが冬越しする。
しかし、ふたたび春が訪れ、さらに新しい顔の波がやって来るようになると、常連は、新顔に圧倒されてその座をゆずり、おりおり顔を出すだけのOBになってしまう。こうした新陳代謝が、年々くり返されているのである。
新しい流入者としては、高校を出たての大学初年生や浪人たちが大半である。しかも知用出身の芸術・文学志望者が多い。東京っ子もときどきは来るが、いつもあっさりしていて、地方出身者のように連日すわりこんで熱っぽい話をしつづけるということはない。
そして、地方出身者の、少々芸術を手がけた者なら鼻について恥ずかしくなるようなことを得意然と口にする熱っぽさが、東京っ子たちを圧倒しているのである。p211「新宿文化論」
8)東京生まれで、パリ大学留学体験後、京都精華短大助教授だった、1925年生まれの著者、43歳の時の弁である。1967年から勃興したという新宿若者文化についてのフィールドワークとしては、わずか1年超の観察と思われるのに、ここまでの断定的な評価はいかがなものか。
9)この一冊には、当時の極めて貴重な記録が満載である。著者の考察には簡単に首肯できないが、また、このような「否定的」な態度やポーズを取りながらも、かなりな至近距離に近寄って、この新しい文化を直視している姿は、ある意味、見事である。
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