「エンドレス・ワルツ」 稲葉真弓
「エンドレス・ワルツ」
稲葉真弓 1992/03 河出書房新社 単行本: 149ページ
Total No.3293★★★★☆
1)1978年に亡くなったフリージャズ・アルトサックス奏者・阿部薫と、1986年に亡くなった元女優・作家・鈴木いづみの、出会いと愛憎の生活と、その終焉を描いた小説。稲葉真弓が1991年12月に雑誌「文藝」に発表し、翌年、女流文学賞受賞。
2)この小説を原作として、若松孝二が映画化している。ネット上で見ることもできる。
3)この小説が発表されたのが1991年12月だとすれば、先日見たテレビ番組の阿部薫特集は、この小説の発表がきっかけとなって企画されたものだろう。当時、ちょっとしたミニ・ブームみたいなものが起きていたのかもしれない。
4)破滅型のミュージッシャンと元・女優作家の生活を描いた小説としては、淡々と時系列に整然と書き連ねて書いてあり、どこか、グラフ用紙か原稿用紙に、きっちりときれいな字で書かれたような印象がある。楽譜のない人生を、逆にそのことが、くっきりと浮かび上がらせる。
5)この小説は鈴木いずみの自伝的小説の形を取っているが、後年に浅場真弓が関係者からの証言や鈴木いずみの本やその他の資料から書き上げたものである。ある意味、阿部やスズキの人生とは、まるで違った手法ながら、まるで破綻のないような一遍の小説に仕上げている。
6)この作品を映画化した若松孝二も、2012年10月(ごく最近のことだ)に亡くなっている。
7)1977年に「Milford Graves– Meditation Among Us」に参加していた阿部薫。極北の志向性を持ちながら、しかもメディテーションという概念のすぐ脇に存在しながら、もし、この小説に書かれたような人生だったとしたら、やはり、彼の身における音から無音の世界へ、という大転換は、無理だったのだと思う。
8)三上寛のいうように1978年を超えることが、阿部薫にはできなかったのだ。
9)稲葉真弓の他の作品にも関心が深まるが、当の本人である鈴木いづみの残した作品群にも目を通しておく必要があるだろう。
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