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2014/10/10

「For the Children 子どもたちのために」 ゲーリー・スナイダー<8>

<7>からつづく

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「For the Children 子どもたちのために」<8>
ゲーリー・スナイダー (著),  山里 勝己 (編集, 翻訳), 高野 建三 (写真) 2013/04 新泉社 単行本: 143p

 ハイキングでもなく、散歩でもなく、ぶらついているわけでもなく、私は這っていたのだ。森の中を、着実に、最後まであきらめないと心に決めて。

 野性の世界への遠出と聞けば我々は通常は直立した歩行運動を思い浮かべる。我々は高山地帯の開けた空間を大股で歩いていく自分自身を想像する---あるいは、それはセイジブラッシュ(ヨモギ)が広がる壮厳な空間を横断していく自分であるかもしれない。

 また、それは、年老いたシュガーパインの林の薄暗い下生えの植物群の中を歩いていく自分でもあるだろう。p102「林床を這う」 「浸透性の世界」『惑星の未来を想像する者たちへ』より

 荒地、あるいは原野、原生林、という単語だけでは、その空間で体験することを類推することはなかなか難しい。この部分を読んで、そう言えば20歳前後の時に、山地を歩き回る仕事をしていたことを思い出した。

 測量技師たちとともに里山の原生林に入り、どことなくポイントを見つけては、ナタやカマで蔦や下草を刈り、時にはノコギリで枝を落としては前に進んだ。秋の紅葉の季節などには、これ以上素晴らしい仕事もないと感じる時もあったが、真冬の木枯らしの強い日など、ポールとメジャーを持つ手もカジカんだし、長靴の中の足指も冷たさに固まった。

 今、思えば、あの仕事は、当時、計画段階だった高速道路のインターチェンジ工事の為の測量図を作っていたのだった。

 私が森の中を這っていったのは12月下旬のこと、空は晴れ渡り明るく輝いていたが、気温は氷点近いものであった。あちらこちらに雪が積もっていた。 

 私たちは何をしていたかというと、退職しようとしていた土地管理局の林務官と一緒に少人数で「ベア・ツリー区画」(6番区画)の四隅と境界線を探していたのである。 

 その林務官はこの土地で長く務めた人物で、何年も前の測量調査を覚えていたのであった。トレイルを離れてみるとそこにはもう道はなく、そのまま森に飛び込むしかない。 

 バリバリと音を立てるマンザニータの葉に覆われた地面に四つん這いになり、その幹の間を這いまわるのだ。森林を這う者の正しい装備一式は、皮の仕事用手袋、頭にぴったりとはまる縁のある帽子、長袖のデニムの仕事着、そしてフィルソン社製の(蝋やオイルを染みこませた)古い厚手のズボンだ。p102 同上

 スナイダーの文章は、ことこまかに自然の情景が書き込まれており、その情景の中に入っていく人々とともに、まさに林を這うような気分を味わわせてくれる。

 冒険好きな人たちには、手袋とジャケットと帽子を準備してそこに入っていき、カリフォルニアを探究しなさいと私は言いたいのである。p103 同上

 私が今体験しているのは、これほど苛酷な環境ではないが、かつてそのような環境を味わっていたことを思い出させてくれるに十分な環境だ。当時に匹敵する体力も冒険心も亡くなってしまっているけれど、すでに長いこと眠っていた野性への呼びかけが、むくむくと頭を上げてくる気がする。

<9>につづく

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