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2014/10/18

「サンショウ」―実・花・木ノ芽の安定多収栽培と加工利用 (新特産シリーズ)内藤一夫<1>

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「サンショウ」 実・花・木ノ芽の安定多収栽培と加工利用  (新特産シリーズ)<1>
内藤一夫(著) 2004/04 農山漁村文化協会 単行本: 190ページ
Total No.3332★★★★★

 山椒はポピュラーな山菜および作物ではあるようだが、関連の書籍は多くない。わが図書館を検索すれば、ほとんどこの一冊があるのみである。

 取り寄せてみると、なんとも見覚えがある表紙である。以前読んだのかなと錯覚したが、じつはこれ、角田公次著「ミツバチ」―飼育・生産の実際と蜜源植物 新特産シリーズ(1997/03 農山漁村文化協会)と同じシリーズの中の一冊であり、表紙は同じフォーマットを使っているのだった。

 サンショウは、実、花、葉、樹皮(甘肌)、幹(材)までほとんど捨てるところがなく、料理や佃煮、塩蔵、漬物、香辛料、漢方薬、香料、薬用、すりこぎ、箸、杖など、幅広く加工利用されている。

 経営的には、従来の実・花・葉サンショウの露地栽培、木の芽の周年栽培などに加え、最近では施設栽培も取り組まれており、作型は豊富になっている。それにより、流通も市場出荷から契約栽培などまで、幅広く行なわれている。p1「まえがき」

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 山の椒においては、以前よりサンショウの宝庫であると言われてきたが、コンテナハウスのリフォームなどを優先していたために、まだその生存環境を確認しないでいた。ところが、薪割りをしようとして古材を見に行ったところ、実にほのかな匂いがした。これがサンショウだったのである。

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 よく見ると、コンテナハウスの脇にも群生するかのように、身の丈3メートルもあるようなサンショウの木が見つかった。赤い実がなっている。軽く歯で噛んで見ると、たしかにあの懐かしいような、サンショウの味が口のなかにひろがり、ほのかに残る。

 最近、実サンショウの鉢植えが、観賞用としてよく売れている。とくに、若者のあいだで鉢植えの需要が増えているという。サンショウを一鉢購入(5000~1万円)しておけば、そう手間をかけず8カ月間さわやかな芳香と緑を楽しめるだけでなく、日常の家庭料理にも利用できるので、割安感もあり人気を呼んでいるようだ。

 これも自然指向や本物志向の表われと思われるが、社会情勢の変化とともにサンショウの需要も変化してきている典型的な例といえる。p 21 「今なぜサンショウなのか」

 おや、それほど高価に取り引きされているものなのか。とするなら、あの辺の何本かを鉢植えにすれば、え~と、何万円になる~~~、などと捕らぬ狸の皮算用を始めてしまいそうだ。それにしても、コンテナハウスの周囲だけでこれだけあるのだから、森全体では、どうなってしまうのか、というほどのお宝が眠っていることは確かなようだ。

 サンショウは鳥獣害の被害を受けにくい。それはシトロネラールを主成分とするサンショウ油と、サンショールと呼ぶ辛味成分のほか、ゲラニオールなどの芳香精油が含まれているためである。強烈な辛味成分を鳥獣類がよく知っていて、よりつかないのである。

 鳥獣害の心配が少ない数少ない作物の一つとして、サンショウをもっと中山間地に積極的に導入すべきだと考えている。p26同上

 これは願ったりかなったりである。山の椒においては、すでにニホンミツバチ養蜂が試みられているが、収穫は確かにあるものの、熊を初めとする鳥獣害の比率が大きく、あれこれ工夫がされたものの、拡大は難しい、と結論がでている。

 昔から、「サンショウの実をとりながら歌をうたうと樹が枯れる」といわれている。その根拠があるのか、栽培している現場圃場で株を掘って調査してみたところ、三年生くらいでも根は深さ1mくらいまで伸びている。

 しかし、その根は繊細で、軽く息を吹いただけで切れてしまう状態で、ホウレンソウなどの野菜の根よりよほど弱く、歌をうたう程度の振動でも切れてしまうほどだということが確認できた。

 また、根はストレスや刺激など環境にも弱く、デリケートである。したがって施肥も、化学肥料は避け、有機肥料を用いる。p27同上

 なるほど、頑固な香辛料のイメージから、頑丈な植物なのかなと思っていたが、これがなんともデリケートな存在であったとは、なかなか爽やかな気分になる。

 この本、その名のとおり、新特産シリーズということで、産業としてのサンショウとの付き合い方に特化されており、当山の椒のスタッフとしては先走りのような気もするが、類する書籍はほとんどないので、将来的には、非常に貴重な一冊となるに違いない。

 サンショウは、しぜん菜園山の椒のシンボルなのである。

<2>につづく

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